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2004年1月29日

婆臭い言語感覚?

言葉

最近文庫化されたばかりの中野翠『無茶な人びと』(文春文庫)を読んでいる最中。本そのものの感想は、気が向いたら別途書くとして、ちょっと「おおっ」と思ったことがあったので、メモ。

だいぶ前、どらさんちにお邪魔してお茶を飲みつつ色々とお喋りをしていたことがあったのですが、そのときどういう流れだったのかは忘れたけど、「“懐妊”っていう言葉は、やんごとなき方々に対してのみ使うものだよね?」という話が出たのです。どうも巷には、「妊娠」と「懐妊」を使い分けてない、あるいは単に「妊娠の丁寧な言い方」のつもりで「懐妊」を使っている人がいるみたいなんだよね……と。

そのときは、その場でどらさんちの国語辞典を引いてみたんですが、意外にも「懐妊」の定義が私たちが思っていたようには限定されてなかったので「うーん、実は、はっきり間違いとは言い切れないの?」という、すっきりしない結論になってしまったのでした。少なくとも、「この文で“懐妊”は変だよ」と他人に指摘したら「でも辞書にはそうは書いてません」と反論される可能性はあるよなあ。

ただ、ベテラン校正者だったどらさんと曲りなりにも和訳で金を取ってる私との両方が、そういう言語感覚でいるってことは、やはりなにかあるんじゃないかなあ――という疑問も、頭の片隅では消せずにいたのです。とか言いつつ、今まできちんと調べることもせずにいたのですけれど。

そしたら、今読んでるこの『無茶な人びと』の中にも、こんな文章があるではありませんか。

 芥川賞を受賞したというので最近話題になっている『海峡の光』(辻仁成、新潮社)という小説を読んでいたら、「妻の懐妊」という言葉が出てきたので、「えーっ!?」とわが目を疑った。
 自分の妻に対して「懐妊」だなんて、あなた、それはないんじゃないの。「懐妊」と言ったら、普通、身分の高い女の人に向かって使う言葉でしょう。身内の人間に「懐妊」はおかしい。もちろん犬や猫に対しても使わない言葉だ。
 何年か前にある女優が妊娠したとき、みずから「懐妊した」と言って、世間の笑い者になったことがあった。ところが今は誰も笑わない、誰も驚かないのだ、不思議。これ、もしかしておそろしい状況じゃない?
〔132ページ、1997年の記事〕

あーあーあー。やっぱりどらさんと私だけの感覚じゃなかったんだ! しかし、その辺の一般的に使われている国語辞典ではまったくそういう使い分けの説明がなされていない現状で、このままなんの違和感もなく「うちの奥さんが懐妊!」とか言っちゃう人々が増えていったら、結局そのうち私らのような感覚でいる者のほうが、「なに言ってんの?」ってかんじになっちゃうのかも。

Posted at 2004年1月29日 02:05

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おお、先日ここでも話題にした「懐妊」という言葉についてなんですが、どうやら岩波の... [続きを読む]

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コメント

そんなことを話したっけねぇ(遠い目)
http://www.mainichi.co.jp/edu/school/keyword/2001/05/j-17.html
ここによると、「懐妊」は「妊娠」の漢語的表現だそうだけど、どうなんだろうね〜

あ、それと私は決して「ベテラン校正者」ではありませんことよ〜

投稿者 どら : 2004年1月29日 23:26



そんな話をしましたよ〜。すんごいむかしのことを持ち出しちゃってすみません(こちらも遠い目)。
教えてもらったページを見てきました。ほんとだ、「漢語的表現」としか書いてない。と、言いつつ同ぺージ内で引き合いに出されているのが「雅子さまご懐妊」なので、なんか微妙……。

投稿者 ならの : 2004年1月30日 15:22



はじめまして.
『懐妊』についてエントリーしようとネットふらふらしてましたらこちらに出会い,膝を打った次第です.
TBさせていただきます.

投稿者 kasumyon : 2007年11月11日 14:32



kasumyonさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
トラックバック、なぜか現在、こちらでは認識されていないみたいなので、とりあえず、このコメント欄でkasumyonさんの該当記事のURLを紹介させてください。
この記事ですよね?
http://blog.livedoor.jp/kasumyon/archives/51106811.html

「懐妊」、同じような感覚の方がさらにいらっしゃって、心強く思いました。

投稿者 ならの : 2007年11月11日 15:28





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