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2004年1月31日

ロブ・ライアン『アンダードッグス』

読了本 | 書籍・雑誌

伏見威蕃・訳。文春文庫、2000年発行。原書は1999年の作品。(Amazon

本来、まったく守備範囲外のジャンルなんだけど、先日からの「シアトル本が読みたい病」で購入してしまった本。でも、読んでみたら、独特の雰囲気があって面白かった。

19世紀末の大火災のときに、廃墟となった街の上から地面を作って新しい街を建設したために、当時の街並みが現在もそのまま地下に残っているシアトル市。小悪党ハリーが、警察に追い詰められてなりゆきで通りすがりの少女を人質に逃亡を図ったものの、うっかりこの地下の迷宮に落っこちてしまったとき、さまざまな人々の思惑が交差する。

善良で正義感あふれる警察官、地下空間をねじろにするホームレスたち、人質救出は二の次でホームレスたちに復讐心を燃やす特別機動隊隊長。トンネル工作員をしていたベトナム戦争時代に負った心の傷に今も苦しむカメラマンと、彼を支えたいと願う恋人。地下でこっそりよからぬことをしていたのが露見するのを恐れて、警察より先に少女を見つけて殺そうとする本物の大悪党たち。

ストーリーのあちこちに、『不思議の国のアリス』からのモチーフが散りばめられています。地下に落っこちる小悪党ハリー(Harry)の渾名が“兎”で三月兎(March Hare)を彷彿とさせたり、その道連れにされる少女の名前がアリス(通称アリ)だったり。警察の要請で二人を追う元トンネル工作員がカール・ルイス(≒Lewis Carroll)でその恋人がダイナだったり。チェシャ猫やクイーンに相当する登場人物も。

誘拐されちゃった8歳の女の子アリが、非常にこまっしゃくれた「めげない」前向きな子で、応援したくなります。誘拐犯のほうが翻弄されてあたふた。本来は子供を盾にするなんて大それた卑怯なことをやるキャラじゃない、気のいいコソ泥レベルの犯罪者であるハリーは、いつしか彼女を守るために自分のほうを危険にさらすようになっていきます。この二人の交流がよかった。

とにかく、地下に潜った面々が、それぞれ自分の周囲でなにが起こっているのか把握できない五里霧中状態で、ほんとに「不思議の国」の冒険なのです。そして、それぞれのたどる道が、徐々に最後の一点に集約されていく過程に、はらはらどきどき。

ところで私、パイオニア・スクエアのところから入る、シアトル市の「アンダーグラウンド・ツアー」には子供の頃、親にねだって一度参加させてもらったことがあるんですが、この本を読むまで、観光客に公開されてる部分以外のアンダーグラウンドはどうなってるんだろうってことを、本気で考えたことがありませんでした。ほんとのところは、どうなってるんだろうなあ。

ちなみに、著者ロブ・ライアンのあとがきによると、

アンダーワールドがどのようなものかをご覧になりたい向きには、パイオニア・スクェアのあるドック・メイナーズというパブを起点とするツアーがある。ただし、このツアーは、旧市街の地下のごくわずかな部分を見てまわるだけであり、汚職、下水道、売春婦といったたぐいの話に抵抗を感じる向きや、タコマ市方面のかたがたは、避けたほうがよろしいかと思う。

ということです。うーん、そんなヤバいツアーだったとは(笑)。記憶にないなあ。私が子供の頃のやつとは、巡回コースが違う? それとも、ガキンチョ(私)がいたので、ガイドの人が自粛した? いや、ただ単に、当時の無邪気な私にそっち系の英語ボキャブラリがなかったので、なんの話してるのか分かってなかっただけかも。

(関係ないけど、翻訳者の伏見威蕃さん。「威蕃」は「いわん」と読むそうだ。1951年生まれの方。本名かなあ。だとしたら、ご両親がロシア文学好きだった? この年代でそういう名前を付けるのって、すごいインテリ家庭じゃない?)

Posted at 2004年1月31日 19:43

コメント

こんばんは、お久し振りです。
Hoping you remember me well.

ならのさんに教えてもらって参加したアンダーグラウンドツアーのことを思い出していました。地下にもぐる前から結構楽しませてくれました。鮮明に覚えているのは、歩道の一部(ツアー内では天井)が厚いガラスになっている所があって、そこからは歩行者が丸見えだったことです。売春婦云々については私も記憶にありません。

この本、書店で見当たらず、アマゾンで入手予定です。

投稿者 みかん8 : 2004年2月15日 02:40



みかん8さん、お久しぶりです。
How could I not remember?

そういえば、みかん8さんはシアトルに行かれたのでしたよね。
『アンダードッグス』、たしかにちょっと前の本なので、街の本屋さんにはもうないかもしれませんね。

ちなみにこの作者、この作品では『不思議の国のアリス』だったけど、その後の作品では『くまのプーさん』とか『ピーター・パン』をモチーフとしたサスペンスものも書いているらしく、ちょっと興味を引かれつつあります。

投稿者 ならの : 2004年2月16日 20:14



「プーさん」仕立てのサスペンスもの、そんなものがあるんですか?ネット検索してみます。

投稿者 みかん8 : 2004年2月17日 01:25



同じく文春文庫から出ている『9ミリの挽歌』というのが「プーさん」らしいです。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167527871/

サスペンスというのとも、ちょっと違うのか。けっこうダークな話っぽいですね。

投稿者 ならの : 2004年2月17日 12:30





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