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2004年9月 8日

『冷戦』

映画・テレビ

2001年の香港映画。【Amazon.co.jp】

DVDで鑑賞。イーキン・チェン主演で監督はジングル・マ。私の大好きな『東京攻略』と同じ組み合わせです。

中国語タイトルの『九龍冰室』(主人公が親友と営んでいる食堂の名前。字幕では「九龍カフェ」と訳されている)、あるいは英語タイトルの "Goodbye, Mr. Cool" のほうが、内容には即していると思うんだけどなあ。この『冷戦』という邦題は、カッコつけてるだけですごく曖昧。

『東京攻略』とは打って変わって、(私が苦手とする)シリアスな義理と人情〜の世界。若い頃はならず者で、刑務所入りしてしまっていた龍(ロン)は、服役中にすっかり油が抜けて落ち着いてしまい、釈放後はせっせと食堂で真面目に働く毎日。ところがなまじっか、ワルだった頃に属していた組織の中で「人望」があったものだから、周りが放っておいてくれない。勝手に期待されたり警戒されたりで、本人の思惑を超えたところで混乱が生じてしまう。むかしの恋人やら、服役中に生まれていた息子やら、息子の小学校の担任の若い女の先生(実は食堂の常連)なども絡んできます。まあ、ありがちなパターンかもしれません。

えーと、これは、「イーキンがお父さん役で子供と共演か! 萌え!」みたいな不純な動機で見始めちゃった私には、かなり辛かったです。痛々しいんですよ、みんな。カタギになるんだと主張しても、全然みんなに信じてもらえない主人公。どんなに反論しても、「いーえっ! あなたは暗黒社会でのし上がるべき人なのよっ!」と一方的に夢を託してしまって、彼を巻き込んで裏社会に復活させる意図で、わざわざ悪いやつらにつかまってみたりする、むかしの恋人。組織の姐御として活躍するお母さんには頼れないので、やたらめったら(いい意味でも悪い意味でも)しっかり者に育ってしまった幼い息子。一回りも年上の主人公に惹かれていることを、あまりにもあからさまに顔に出してしまう、あまりにも初々しすぎる、小学校教師。

結局主人公は、もう少しで新しいカタギな生活を確立できる……という展望が見えてきた瞬間に、それを奪い取られてしまいます。本人としてはもう心の底から嫌気がさしている、かつては自分にとってもそれがすべてだった「男の面子」を賭けた無意味な戦いに、過去の抗争による傷害が残る足を引きずって、赴かざるを得ない状況に追い込まれます。「ほのぼの親子シーンに萌え」どころじゃないのよ。

むかしの恋人役で出ているカレン・モクが、ものすごくきれいでした。普段、「個性派」女優として不美人な役柄で出てくることが多い彼女ですが、実はこんなに凛としたたたずまいの美しい人だったんだねー、というかんじ。

ただ、ヒロイン二人(もっと言うなら、女性全般)は、おそらく主人公(ひいてはストーリー全体)にとって、重要度は低いんだろうなあ。主人公と亡くなった父親の関係を思わせるシーンは何度もリピートするのに母親は一度も出て来ない、というのに呼応するように、主人公とヒロインたち(片方は息子の母親でもある)の関わりよりも、主人公と幼い息子の関わりのほうが断然クローズアップされている。あくまでも、「男同士」のお話なのね。

お話としては、なんか暴力的にぶった切られた感があって、ちょっと割り切れないし、やりきれない。でももしかしたら、そこまで含めて、作品の意図だったのかも。いったん堕ちたら、納得の行くラストシーンを迎えることもできないんだよ、という。

イーキン・チェンは、若い頃(私は1本も見ていないのですが)『欲望の街 古惑仔』という、香港のマフィア社会をとってもクールにカッコよく描いたシリーズに出演して人気が出た人なので、三十を過ぎてから「マフィアなんて全然カッコいいことないよ、いったん関わったら泥沼だよ」と主張するこういう映画に出たことは、彼にとっては、意味のあることだったのかもしれないなあ、と思いました。

Posted at 2004年9月 8日 00:23



All texts written by NARANO, Naomi. HOME