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2004年11月 1日

『欲望の翼』

映画・テレビ | 王家衛

1990年の香港映画。原題『阿飛正傳』、英題『Days of Being Wild』、監督ウォン・カーウァイ(王家衛)。【Amazon.co.jp】

通して観たのは8年ぶり、3回目。思えばこれが、初めて観たウォン・カーウァイ作品でした。1992年頃かなー。ある晩、たまたまテレビを点けたら放映が始まって、タイトルも確認せずに、そのまま見入ってしまったのです。当時は、ウォン・カーウァイなんて名前も知らず、実はこれが香港映画だということすら、よく分かってませんでした。ただ、全体的に暗い色調の画面の中から発散される独特の美意識とか、突然挿入される密林のイメージの、青みがかった湿度の高い緑とか、登場人物のそれぞれがもやもやとしたものを抱えて、もがきながら生きているストーリーに、なんとなく引き込まれて、そのままぼーっと最後まで観てしまったのでした。

で、ずーっとあとになって、『恋する惑星』に衝撃を受けて、職場の香港映画好きの人にそれまでのウォン・カーウァイ作品のビデオを貸してもらって。そのとき初めて「あれ、私この映画、知ってるよ?」となったわけです。

群像劇なんだけど、中心にいるのは、今は亡きレスリー・チャンが扮する「ヨディ」という青年ですね。女の子相手に「夢で会おう」だの、「この1分を忘れない」だの、かーっ、スカしてるなあ……と思うんですけど、最後の最後までこの調子で「今日もいい天気で終わるのかな?」なんてやられちゃうと、えーい、許す、あんたなら許すよ! ってかんじで(どんなんだ)。最初に観たときはもちろん、実は2度目に観たときすら、彼がどれほどすごい評価を受けてる人なのかってことは、全然知らずにいたわけですけれども。しかも、個人的にはこの人、好みのタイプだったことは一度もないんですけれども。でも、このヨディが、自分自身は「どこにも止まれない脚のない鳥」なんてうそぶきつつ、皆の心をかき乱し、振り回していく存在であることは、強引に納得させられた。(レスリーってこう、常に「ぬめぬめ」としたかんじの色気がにじみ出ているのが、目のやり場に困るから苦手だと、ずっと思っていたのでした。なのに死亡のニュースを見たときにはものすごいショックで、一日、何も手につかなかったっけ。それだけ、無条件で存在が大きかったんだなあ。余談でした。)

誰もかもが、満たされない思い、報われない思いを抱えている、やるせないストーリー。現在は脚本ナシで撮影始めちゃうことで有名なウォン監督ですが、まだこの頃は、ちゃんとある程度、お話を固めてから撮影してたのかも、という印象です。その分、いくぶん陳腐なストーリー展開もあります。でも、それを「野暮ったい」と笑い飛ばすことは、できない。一番ホッとするのは、ヨディに失恋した女の子と、彼女を助けたいと思う警官さんの交流があるシーンですが、その二人さえも、やがてはすれ違ってしまう。ウォン・カーウァイって、初期の頃からずっと、さまざまな「すれ違い」ばかりを描いているんだなあ。モノローグの使い方も、後の作品に通ずるところがあります。

最初に観たときには、思わせぶりなラストシーンがとっても謎だったんですが、あとになって、これが本来、2部作の前半だったことを知りました。結局、撮られることなく終わった続編は、どんなものになるはずだったんだろう? トニー・レオンは、どこでほかの登場人物たちと絡んでくるの? 警官さん(のちには船乗りさん)は、「彼女」と再会するの? とはいえ、この「満たされないで終わるもどかしさ」をこちらに抱かせる、どっか宙ぶらりんなラストは、この作品には似つかわしいような気もします。延々と「宙ぶらりん」な気持ちを描いた映画だもの。いっそもう、続編なんて、初めから「なかったもの」と見なしておいていいような。

さて。ここで告白させてください。私、ずーっとウォン・カーウァイを好きな映画監督の一人に挙げてきて、さらに『欲望の翼』関連では、いつも「一番好きな登場人物は、あの警官さん!」なんてほざいてたんですよ。なのに、今回新作映画のための予習として過去作品を観直そうと思って、作品情報を改めてチェックするまで、その「警官さん」を演じているのが、若き日のアンディ・ラウだったってことに、全然気付いてませんでした! ここ最近あんなにアンディ萌えだったのに! つまり、先日「初めて観たアンディ・ラウ出演作は時代物だった」なんて書いたのも、大嘘だよ! 監督ファンとしても俳優ファンとしても、滅茶苦茶いいかげんだなあ>私。

もちろん、香港映画知識なんて皆無なときに観たからっていうのはあるんですが。2回目のときだって、俳優はあんまり気にしてなくて、あくまでも監督に興味があって観た作品だからっていうのも。

でも、「ヨディ」がレスリー・チャンだとか、彼と絡む女の子二人の片方が、マギー・チャンだとか(もう一人がカリーナ・ラウだったことは忘れていた)、ヨディの友人がジャッキー・チュンだとか、正体不明の男がトニー・レオンだとか、そういうのは、後に得た知識で頭に入ってたんです。なのにどうしても、あの「警官さん」だけが、顔をはっきりと思い出せなかったし、なぜだかこの9年間、誰が演じていたのかを調べようという気にも、一度もならなかったんだよなあ。「警官さん」は「警官さん」としか思ってなかった。

というわけで、実際に9年ぶりに観てみて、画面にアンディ・ラウが登場したときには、「おおおっ!」って思いました。わっかーい。でもたしかに、紛れもなく、アンディだねえ。記憶の中では、マギー・チャンと一緒にいる警官さんが一番好きだったけど、今回は終盤の、レスリーと一緒にいるアンディが、すごくよかった。

Posted at 2004年11月 1日 23:13



All texts written by NARANO, Naomi. HOME