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2004年11月 7日

『ターンレフト ターンライト』

映画・テレビ

ウォン・カーウァイ週間を一時中断して、土曜日に新宿で金城くん映画を観てきました。香港では2003年に公開された作品。原題『向左走・向右走』、英題『Turn Left, Turn Right』。監督:ジョニー・トー&ワイ・カーファイ、主演:金城武&ジジ・リョン。ワーナー・ブラザース初の中国語映画だそうです。(公式サイト

ジミー(幾米/Jimmy Liao)による絵本『Separate Ways 君のいる場所』(1999年、原題『向左走・向右走 Separate Ways』)の映画化。中国語圏ではものすごく人気のある作家さんらしく、この原作もベストセラーだったとか。

公式サイトやパンフでは、主役二人には「ジョン」と「イブ」という名前が付いているんだけど、作中で名前を呼ばれる場面って、あったかな? 原作では最後まで「彼」および「彼女」としか書かれていません。映画でも、名前は必要なかったのでは(笑)。

なかなかよい仕事にありつけないヴァイオリニストの「彼(金城武)」は、家を出ると右に曲がる癖があり、不本意な仕事もこなさねばならない雇われポーランド語翻訳者の「彼女(ジジ・リョン)」は、左に曲がる癖がある。なので、隣接するアパートのちょうど隣同士の部屋に住んでいるのに、ちっとも顔を合わせない。その二人があるとき、息抜きに訪れた公園でやはり右と左に曲がりながら歩いた結果、円形の噴水池の反対側にいる相手に気付いて運命を感じます。今までパッとしなかった人生が、いきなり明るくなったよう。ところが交換した電話番号のメモが雨に濡れて判読できなくなったため、連絡がつかなくなってしまいました。探す相手が壁のすぐ向こう側にいるとも知らず、またまた延々とすれ違いを繰り返す二人。

わはははは。原作絵本は、都会で一人暮らしする若者の孤独感みたいなのがひしひしと伝わってきて、しんみりとした切なさ満載だったんですが、映画版はこれを、絵本の雰囲気そのまんまで、絵本にしっかり敬意を払いつつ、テンポよくキュートなコメディにしてしまいました。職人芸を感じたよ。

原作は立ち読みですませようと思えば5分でオッケーなくらいの、すごーくシンプルな話なので、もちろん、映画ではいろんなアレンジが入ってはいます。主役たちが見事に対称的に動くことによって生じる、信じがたく壮絶なすれ違い方が、絵本よりも具体的に描かれます。また、主役たちに横恋慕する男女が繰り広げるドタバタは、まさしくコテコテの香港コメディ映画。ワーナーが出資してるとか、そんなことまったく影響してません。

と、同時に、感動するほど要所要所が絵本のイラストレーションそのままでした。ぜひぜひ、絵本を読んでから観てみることをお勧めします。私はDVDが出たら、傍らに絵本を置いて、DVDプレイヤーの一時停止ボタンをばしばし押しながら、あれこれチェックするつもりです。

なんせ、絵本で象徴的に使われてる表現まで、しっかり映像化しちゃってるのだ。たとえば冒頭。雨の街をゆく人々の傘がみーんな真っ黒で、その中で主人公たちだけが色のついた傘をさしている。絵本ではこの見開きページによって、どれだけたくさんの人間がいてもぽつんと孤立している彼ら、という状況が一目で直感的に分かるわけですが、映画もまた、この現実ではあり得ないシーンから始まります。これ見た瞬間、高らかに宣言されたような気持ちになりましたね――これはリアリティを出すことなどまったく考えてない映画だぞ、と。もう、どんなにあり得ない展開が来ても、この世界の中ではアリなんだなー、と素直に思えてしまう。

とはいえ、まさか、原作絵本では前ページからいきなり場面転換する、どちらかと言えば象徴的意味合いが強いと思えるあの最後の見開きページまでもが、映画の中で忠実に再現されるとは、思いませんでした。呆然としつつ驚嘆。「そんな馬鹿な」という気持ちと、「でもこの映画には、似つかわしいかも」という気持ちのあいだで揺れ動いているあいだに、気付いたらエンドマーク。力技で押し切られましたわ。ただ、(微妙にネタバレ→)時節柄、今たちまちの日本では、笑顔で受け止めることにためらいを覚えるようなオチになってしまった(←ネタバレ)ことが残念。タイミング悪かったよなあ。中国語圏で公開されたときから、あまり間を置かずに日本でも公開しておいてくれれば……。

あそこでさくっとエンドロールへ、というのは潔くて好き。あのあとどうしたんだろう、というのは非常に気になるけど(笑)。最後のカットが絵本の巻末奥付のイラストそのままなのも洒落てる。

金城くんとジジちゃんは、どちらも「絵本の主人公」にふさわしい、生々しさのない浮世離れっぷりをかもし出していて、いいキャスティングだったなー、と思わせてくれました。ジジが仕事で翻訳している言語がポーランド語だとは、原作ではどこにも書かれていないのですが、最初のページにポーランドの詩人の作品が引用されているので、これを映画の中でも無理なく登場させるために、そういう設定にしたのでしょう。金城くんのヴァイオリンの音は絶対に吹き替えだと思いますが(ただし本人も先生について演奏の特訓はしたそうで、楽器の構え方はなかなかサマになってました)、ジジのポーランド語セリフは本人が全部喋って頑張ってます。こちらも、ちゃんと撮影前に語学の先生について練習したそうです。

とにかく、隅々に小さな楽しみが詰まった、可愛らしい映画。

Posted at 2004年11月 7日 22:37

コメント

こんばんは。『LOVERS』に続きこの『ターンレフト・ターンライト』でまたお邪魔してしまいます。既に2度観ました。いやぁ、予想しない楽しさでした。こんなに笑えると思ってなかったし、こんなに自然にホロリと泣けるとも思っていなかった。コテコテのいかにも香港映画らしいユーモアであれだけ笑わせておきながら、最後にキューっと胸が痛くなってしまうところや鑑賞後の後味の良さが素晴らしく、さすがはジョニー・トー監督でした。

金城君とジジの組み合わせは『君のいた永遠』で既に観ていたはずなのに、何だかとても新鮮だったのは、かなり時間が経っていたこともあるものの、やはり原作が絵本だったということが大きかったように思います。『君のいた永遠』はすごく話がリアルな感じがしたのに対し、今回は二人が見事に絵本の中の人を演じていて、改めて感心してしまった。トー監督がインタビューなどで「武の演技は完璧だった」と言っていたことも頷けるような。

金城君に関して言うと、この間まで『LOVERS』を観ていたこともあって、その同じ人だと判別し難いほどのギャップがファンとしてはものすごく嬉しいです。

それから、原作者のジミーさんがちょこっと出演していたり、ジジの出演作は良く知らないのですが、金城君の作品にゆかりのある台詞や店の名前など、結構「遊び」が散りばめられていて、そういうところを探すのも面白かったです。

本でも映画でも、私にとっては初めから現実逃避のためのものなので、もとよりリアリティなどは求めていないわけで、有り得ないお伽話を描くスクリーン上の世界に遊ぶ楽しさを充分に味わえて、本当に素敵な作品でした。

投稿者 はける : 2004年11月11日 22:15



はけるさん、こんにちは。『ターンレフト ターンライト』、やっぱりすでに複数回、ご覧になっていましたか。いいなー。

『LOVERS』の金城くんも悪くなかったけど、私はこっちの金城くんのほうが好きだなあ。あれは金城くんにしかできない役ではないでしょうか。

さりげない小ネタというか、はけるさんがおっしゃるところの「遊び」があるのも嬉しかった。何度も観てみたいと思わせる作り。ジョニー・トーって、そういうことやるのが好きなんですね。最近、ほかの作品を観るようになって、段々分かってきました(笑)。

ジミーさん、ちゃんと原作絵本の背景に出てきたおじさんと同じように家族連れで新聞読んでましたね。

実はあまりにも長いあいだ日本公開が決定しないので、何度も輸入版DVDを買ってしまおうかと思ったんですが、最初はスクリーンで観たいと思ってじっと我慢していた甲斐がありました。大画面(シネマミラノ、そんなにはでかくないけど)で観るにふさわしい、素敵な映画でしたね。

投稿者 ならの : 2004年11月12日 09:52





All texts written by NARANO, Naomi. HOME