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2004年11月11日

『大英雄』

映画・テレビ | 王家衛

1993年の香港映画。原題『新射G英雄傳之東成西就』、英題『The Eagle Shooting Heroes』。監督:ジェフ・ラウ。製作総指揮:ウォン・カーウァイ、アクション監督:サモ・ハン・キンポー。

DVDで。やー、これ、ものすごかったわ。こんな大馬鹿映画は、生まれて初めてです。笑い死ぬかと思った。どんなにどよどよ気が滅入っていても、これ一本で浮上しますわ。受け付けない人にとっては眩暈がするほどくだらない作品だと思うけど、これが好きだという人とは私、無条件でお友達になれそう。

旧正月映画として公開するはずだったウォン・カーウァイ監督の『楽園の瑕』の撮影が、ちっとも予定どおりに進まず停滞していたため、プロデューサーだったジェフ・ラウ自らが監督となり、撮影中断で暇になっていた俳優やスタッフをほぼそのまま流用して、『楽園の瑕』と同じ小説を原作とし、『楽園の瑕』の原題である“東邪西毒”をパロった“東成西就”というタイトルを付け、1週間かそこらで完成させてしまったという、驚きのいわくつき作品。(しかし、そもそもウォン・カーウァイに締め切りのある仕事、しかもおめでたい「お正月映画」を任せるなんて、めちゃくちゃ無謀な試みだったんじゃないでしょうか?)

そういう成立過程だから、もう、映画自体は、とことんチープでお馬鹿なんです。なのに、出演している人々は、もう二度と実現しないだろうなあ、というくらいの超豪華メンバー。

欧陽峰(トニー・レオン)が王妃(ヴェロニカ・イップ)と共に国王に対する謀反を企てたため、第三王女(ブリジット・リン)は王権の証である印章を持って逃れます。欧陽峰は占い師(マギー・チャン)の助けを借りて王女を追いかけますが、その途中で落っことした飛行ブーツが全真教のお坊さんに命中、絶命させてしまいました。彼を慕う男色家の弟弟子(カリーナ・ラウ)は、ちょうどすれ違った王女を殺人犯と思い込み、復讐を誓います。

さて、第三王女は武術の師匠を訪れて助言を請い、武術の奥義を記した経典を求めて旅立つことに。師匠のもとで修行中だった黄薬師(レスリー・チャン)は、姉弟子である王女に一目惚れし、ボディガードとしてついて行きます。薬師のことが大好きな妹弟子のジョイ・ウォンは嫉妬の虜となり、あとを追いますが、そこへ幼なじみでジョイに惚れてる洪七(ジャッキー・チュン)が登場。一方、王女の婚約者であるタン様(レオン・カーファイ)は、胸に「666」の痣のある運命の恋人から3回「愛してる」と言ってもらうことで昇天して仙人になれるという夢のお告げを授かり、婚約破棄を決意……。

ぜーはー。こ、これで主要キャラ全員、紹介文に含められたかな? 『楽園の瑕』のチャーリー・ヤンがいない代わりにヴェロニカ・イップとジョイ・ウォンが参加していて、賑やかさでは本家よりさらに上かも。とにかく、こんなストーリーを軸に、どこから突っ込んでいいのか分からないほどのコテコテのギャグがてんこもりです。

な、なんなんですか、レスリー・チャンの必殺技、「流し目剣法」って! ひー。この映画のレスリー、めちゃくちゃ可愛いですよ。こんな可愛らしく色っぽくヘタレた演技のできる人だとは、思いませんでした。さらには、ほぼ同時期にバリバリ文芸系のおフランス映画で主役を張ってたレオン・カーファイの、あの悪夢のような女装姿! そしていつもはキリッと凛々しいブリジットが演じる天然系わがまま王女の、なんとキュートなこと。本人だけが武術の達人のつもりでいるんだけど、毎回ズレてるの。怪しげな占い師マギーも、アラビアン・ナイトちっくなコスチュームがとってもお似合い。胃の中に入れられたムカデを鶏肉で釣り出そうと、あのチャイニーズ・ビューティなお顔で「あががっ」と大口を開けて釣り糸たらしちゃうんだよ。

しかし、燦然と輝くキング・オブ悪ノリ演技、究極のイメージぶち壊しチャンピオンは、断然トニー・レオンでしょう。のちにカンヌで主演男優賞を受賞することになるようなお方が、妙なターバン巻いて「イーヒヒッ、ガマ神術、其の一……ゲコッ」って。タラコ唇のメイクで涙目になって「俺、アヒル……グワッ」って。トニーさんのファン的には、あれ、どうなんでしょうかね? 惜しむらくは、日本で発売されたDVDが、何故か北京語吹き替え版であること。これはぜひぜひ、ご本人の声で聞きたいなあ。広東語バージョンの入ってる香港版DVDを買おうかなあ(こっちも吹き替えだったりするかもですが)。

あの、ストーリーがどシリアスかつ、あくまでも救いがないうえに、いつまで経っても撮影が進行しない『楽園の瑕』のおかげで、皆さん、よーーーーっぽどストレス溜まってたのかしら……と勘ぐってしまうくらい、どの人もこの人も、おっそろしいハジケっぷり。別人みたいです。よくもまあ、大スターがそろいもそろって、これだけのことを。イヤじゃなかったのかしら。あ、でも作中で女装したレオン・カーファイとレスリー・チャンが大変に阿呆なお歌に乗って踊るシーンがあるんですが、その歌って、エンドロールによると……レスリー・チャンが作詞? やっぱり、キャストもノリノリ協力体制かい。

そしてフィナーレは、お正月映画にふさわしく、どこまでも華やかに、どこまでもおめでたく。嗚呼、素晴らしい。観終ったあと、思わず叫びそうになりました。

「香港映画、万歳っ!」

Posted at 2004年11月11日 23:40



All texts written by NARANO, Naomi. HOME