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2005年1月23日

マイケル・J・フォックス『ラッキーマン』

読了本 | 書籍・雑誌

入江真佐子・訳、ソフトバンク, 2003年1月刊。【amazon.co.jp】

原書はMichael J. Fox "Lucky Man:A Memoir(2002)" 。1998年に、若年性のパーキンソン病にかかっていると公表した俳優マイケル・J・フォックスの自伝。

実を言うと、マイケル・J・フォックスの出演作品は、ほとんど観てないか、記憶から抜けてしまってます。でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの頃、このひとの人気はすごかった。映画を観てなくても、彼の顔は至るところで見られました。高校時代、同じクラスに熱狂的な『ファミリー・タイズ』(米国のTVドラマ。フォックスの出世作)ファンがいて、切々とマイケル語りをしてくれたりしたのを、今でも思い出します。ああそうだ、学校の英語の授業で『ファミリー・タイズ』のビデオを観たこともあったなあ。

そのマイケルが「パーキンソン病」であると自ら告白し、全世界に報道されたとき、なんだか……運命って理不尽だなあ、とやり切れない気持ちになったことを覚えています。小柄な身体とソフトな顔立ちのおかげで、実年齢よりもずっと若々しく活き活きした印象を保っていた彼が、本来ならまだまだ働き盛りのはずのときに、もっとずっと年取った人がかかることの多いこのような病気になって、思いどおりにならない身体を騙し騙し生活していたなんて。そしてまた、「パーキンソン病」という病気が存在すること自体、私はこのマイケル・J・フォックス絡みの報道で初めて知ったのでした。

さて、本書。発売直後には、かなり話題になって、あちこちの書店で平積みされてずらりと並んでいたはず。なんとなく読めずにいましたが、当時からネット上でレビューを見て気になってました。そして読んでみたら、噂に違わず、面白かった!

もちろん、病気に関する情報や、発病が分かってからの精神状態にも多くのページが割かれているのですが、そこに至るまでの半生を丁寧に振り返っている部分が、とてもよい。コメディもので当たり役をとった人だけに、ユーモアのセンスがいいんだろうな。悲惨な状況を綴った部分も、一貫して、からっとした語り口。

幼い頃の微笑ましい(しかし三つ子の魂百までもって本当なのね、と思わせるような)冒険談。背が伸びず落ち着きがなく、マトモな大人になれないのではという目で見られていた彼を、なんだかんだ言いつつ信じ続けてくれた家族たちのこと。演技に目覚めた頃のこと。結婚相手となった女優トレーシー・ポランとの出会い、生まれた子供たちとのやりとり。

なんとなく、トップスターだった頃のこの人って、主に容姿のキュートさでポンと売れたアイドルみたいなイメージで捉えていたのですが、けっこう苦労していた時代もあるのね。そして実は真性の「演技おたく」であり、それでいて、ドラマや映画の仕事を「食い扶持を稼ぐための手段」としてかなり冷静に見てもいる。高校中退してそのまま俳優になっちゃった人だけど、そんなこと関係なくて、もともと若い頃からすごく頭がいいんだろうと思う。

私は、彼がカナダ人であることすら、この本を読むまで知らなかったんですが、カナダの田舎から一旗上げるために車で遠路はるばるハリウッドにやってきたときのこと、スターになってから、映画のロンドン・プレミアでダイアナ妃と対面した際、「臣下の人間」として(カナダはイギリス連邦に所属しているからね)周囲のほかの関係者よりずっと緊張していたために失敗してしまったエピソード、どれもこれも興味深く読みました。もちろん、それ以外の、さまざまなヒット映画の裏話的な部分も。

で、スターになってちやほやされたり、発病が分かって追い詰められたりといった時期には、精神的にかなり危うくなるんだけど、最後には周囲から差し伸べられた手にちゃんと気付いて、踏みとどまって、取り返しのつかないところまでは落ちずに戻ってくる。結局のところ、根っこの部分でまっすぐ素直に育っている人が、一番強いのだなあ、と思わせられたり。

病気を受け入れることができてからの、カッコつけたところや悲劇の主人公ぶったところのない、淡々と「できることをやる」姿勢、しかも自分が有名人であることをクールに認めて、偏見を持たれがちなこの病気の実情を世間の人に知ってもらったり、現在はまだ不治とされているこの病気の治療法研究を進めてもらったりするための「広告塔」として自分自身を利用しちゃう姿勢が、かえってかっこいいなと思いました。

Posted at 2005年1月23日 11:42

コメント

ご無沙汰してます。
名前を変えて初のカキカキです(笑)

私もこの本を買おうかどうしようか悩んだまま、買わずにいます。
小柄なせいか年齢の割には童顔で、それでいて不思議な雰囲気をもった人なんだなと思っていました。
彼の代表作(と言っていいんでしょうね)「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は3作とも映画館で見ました。(年がばれます)
この映画でプチファン(笑)になったと言っても過言ではありません。

身体が不自由になっても、声優としてお仕事をされている彼の情報を知って以来、「がんばって」とエールを送っています。
がんばっている人にこれ以上がんばってと声をかけるのは失礼かと思いましたが・・・

投稿者 碧 : 2005年1月28日 18:35



碧さん、こちらこそご無沙汰してます。マイケル・J・フォックス、私は映画をあんまりちゃんと観てないんだけど、あらためて今更ながら観てみたいなあ、と思っているところです。
そうそう、『スチュワート・リトル』とかで声優やってますよね。

本、すごく面白かったです。病気をカミングアウトしてからは、声優や俳優としての仕事も病気に関する活動の仕事も、みんな同列に「自分の仕事」として捉えてる、みたいなことが書いてありました。多分この本を書いてからは、文筆の仕事も増えたんでしょうね。

投稿者 ならの : 2005年1月29日 13:53





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