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2005年4月22日

インファナル・アフェア III 終極無間

映画・テレビ

2003年の香港映画。監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック。主演:アンディ・ラウ、トニー・レオン。(公式サイト

日本での正式公開初日だった4月16日に観て来たんですが、その後あれこれと忙しくなってしまって、今まで感想書けずにいました。

待ちに待った3部作の完結編。2作目「インファナル・アフェア II 無間序曲」は、1作目「インファナル・アフェア(無間道)」よりも前の時代にさかのぼった話だったので、今回のがストーリー上は、1作目のつづきとなります。もう、観てたら脳味噌がぐるぐるしてきて、すんごい疲れたー。緊迫感の持続性、話の展開の読めなさでは、今回も1作目に負けてません。何を書いてもネタバレになってしまうよー。うがー。

ただ一つ言えることは、この3部作が、一貫して「ラウの心の弱さ」に焦点を当てたものであるということです。いや、ラウびいきの私が言っても説得力ないかもですが。ウェブをあちこち見てると、少なくとも1作目の段階では、もう一人の主人公「ヤン」(トニー・レオン)に感情移入する人が圧倒的に多かったようなのですが(香港アカデミー賞で主演男優賞を獲ったのもトニー・レオンのほうだしね)、私は最初からずっと、ラウというキャラクターが興味深いなあと思って観ていました。

少年期に、ある年上の女性に出会ってその歓心を買うために道を踏み外し、彼女に寄せた一途な想いに応えてもらえずじまいだったことで、抱えた歪みをどんどん増幅させてていくラウ。誰にも心を許せないまま、実はマフィアの一員である警察官として表面的にだけは巧く立ち回って順風満帆だったラウ。もっと本質的なところで強い精神を持って軌道修正できてさえいれば、自らの欲望に翻弄されず、早いうちに「こうありたい自分」を確固として保つことができてさえいれば、無間道に落ちることはなかったのかもしれない。でも、できないんだよな、彼には。

ラウの対角線上のポジションにいるヤンは、そんなラウの弱さを強調するかのように、あくまでもまっすぐな、強い人間として描かれます。特に、生前のヤンの行動を調べ始めたラウの視点でのヤン像が入り込んでくるこの第3作では。ヤンの場合、潜入捜査官として黒社会の面々と一緒に生活をしつつも、善人でありたい、警察官でありつづけたいという気持ちは、消えることがない。だから、たとえ血を分けた肉親であっても犯罪者は犯罪者として告発するし、たとえ自分の命がかかっていても、他者の命を奪えない。その一方で、たとえ日陰の身のままであっても、彼を好いてくれる人々はちゃんと現れるし、ほんの一瞬だったかもしれないけど、心を通わせることのできる相手にも遭遇する。

ヤンのようになりたいと願いつつも、愛憎や保身のために殺人だって犯してしまうラウは、本当は、いくらあがいたって、ヤンにはなれっこないのです。その彼が、静かに静かに、引き返せない地獄の中へと引き込まれていく過程を、この3作は丹念に描いています。そもそもの初めに、ヤクザの妻にどうしようもなく惚れて、その頼みごとを聞いてしまうということがなければ、彼の本質的な心の弱さも、彼の本質的な器の小ささも、ごく普通のありふれた人生を送るうえで、さほど障害にはならなかったのではないかと思うのだよね。だからこそ、すごく哀しいし、踏み外すというのは、こういうことなんだ……と思うと、背筋がぞくりと寒くなる。

1作目が本当に鮮烈で、あのラストも私にとっては「あれしかない!」ってものだったので、そこからいったいどうやって続編を作るんだ? 蛇足にしかならないんじゃないか? と、観る前は不安いっぱいでした。で、結局、1本1本でなら、やっぱり一番完成度の高いのは、1作目だったんじゃないかと思います。ただ、この3作目を観ちゃうと、もうこのシリーズは、3本まとめて1つの作品と評価するしかなくなってくるんですよね。

1作目が単独でも強烈なインパクトを持っていたのに対して、この「終極無間」は、前の2作がなければ、成立しえない作品です。この作品そのものが、ジグゾーパズルのように時系列を細切れにして断片を積み重ねていきながら全体像を浮き上がらせるという構造になっているだけでなく、これまでの作品もまた、実はパズルのピースであったことが判明したというかんじ。時系列を思い切りシャッフルして、1作目のストーリーが始まる直前までのエピソードをも挟み込んだこの作品があることによって、前の2作までもが、様相をがらりと変えてしまうのです。

面白いな、と思ったのは、この3部作、個々に考えるとそれぞれ、属しているジャンルが違うんです。1作目が香港映画のイメージをくつがえしてくれたほどシャープでスタイリッシュな印象を持つ警察モノだったのに、2作目はむしろ、あるマフィア一族の没落を核とした、ウェットな義理としがらみの裏社会を描く伝統的な香港ノワール。画面の雰囲気が、まるで違います。そして今回は……なんだろう、こういうの。1作目のラストで無間地獄に落ちることを決定的に運命づけられたラウのその後の危うい精神状態を、執拗に執拗に描いていくこれは、どう見てもサイコ・サスペンス? なのにやっぱりこの3作は、はっきりと1つの作品世界に属するものでもある。面白い。

あと、3作目の予告編を見た段階で「アンディ・ラウとトニー・レオンの共演ってだけでも充分にコテコテなのに、ここにまだレオン・ライなんていうビッグ・ネームを投入ですか! 胃にもたれそうだよ!」とか思っていたわけなんですが……すみませんでした。レオン・ライくらい存在感のある人を持って来てようやくバランスが取れるほどの重要な役どころでした。鬼気迫る演技を披露するアンディ・ラウと丁丁発止に渡り合える人じゃないと。このシリーズ、どの役者さんも、よかったなあ。

それから……白状します。今まで、あれだけこのシリーズ好きだ好きだ大好きだと言っておきながら、3部作の3作目まで観てようやく、タイトル 「インファナル・アフェア」の "Infernal(地獄)" が "Internal(内部)" とかけてあることに気付きました。中国語タイトルが「無間道(日本語で言うところの無間地獄)」だっていうのに気を取られすぎました。がくり。

ラウが所属する香港警察の「内務調査課」の英語名称自体が、"Internal Affairs" だよ……。映画の中でラウが電話に応対するのを聞いてやっと気付いた。

さらに、1989年のリチャード・ギア主演映画「背徳の囁き」の原題がモロに "Internal Affairs" で、これがロサンゼルス市警の「内務調査員」の話らしいんだな。おそらく、これも念頭に置いたうえでのタイトルでしょう。

こういうの、1作目が公開されたときに映画のパンフとかに、いろいろ書いてあったのかなあ。つくづく、その頃にはまだノーマークだったことが悔やまれます。

Posted at 2005年4月22日 22:42



All texts written by NARANO, Naomi. HOME