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2006年10月15日

細い目 (Sepet)

映画・テレビ

2004年のマレーシア映画。
監督・脚本:ヤスミン・アハマド
出演:ウン・チューソン/シャリファ・アマニ/イーダ・ヌリナ/ハリス・イスカンダー/アディバ・ノール
公式サイト:http://www.sepet.com.my/

なんだか急に、この映画について書きたくなりました。去年の東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した作品。ほかにもいくつか、マレーシア内外で賞を獲っているようです。今月末に開催される今年の東京国際映画祭でも再度上映があるみたいなので、これからご覧になる方もいらっしゃるかもしれませんね。

私はこれ、海外通販で購入した英語字幕付きのVCDで鑑賞しました。問題は……登場人物が英語でしゃべるところは、基本的に字幕が付かなかったりするんです(何故か付いてるときもあり、その基準が不明)。で、その英語っていうのが、アメリカ英語に慣れた耳には、ちょっと聞き取りづらい。これが噂の、マレーシア英語ってやつ? そんなわけで、完全に内容を理解できたとは断言できない状況です。

でもこれ、すごく好きだなー、と思いました。いろんな意味で、面白かった。

実は最初にこの映画に興味を持ったのは、去年の東京での上映時にご覧になった方の感想をネットで読んでたら、ヒロインのマレー人の女の子が金城武の熱狂的なファンという設定……と書いてあったからでした。で、金城くん映画のディスクを買いに中国人のお店に出向いて、そこでマレーシア華人の男の子に出会って……というお話だと。

えええっ、敬謙なイスラム教徒のマレー少女が? 実は金城くんラブなの? きゃはははは、それはすごい! 金城くんってやっぱり、人種間の感覚の違いを超えて魅力的な俳優なんだわ! やーもうそれ、どんな映画でもいいから、とにかくネタとして一度、機会があったら観てみたいような気がするわ! そして画面の中のヒロインにむかって「そうよね、そうよね、金城くん素敵よね」と頷いてあげたいわ!

その時点では、やがて自分にとって、マレーシアが特別な意味を持つ国になってしまう日が来るなんてことは、夢にも思っていませんでした。そう、上記のようなことを考えた約半年後に、私はマレーシア出身の中国系ミュージシャンである光良(中国語圏以外での呼び名はマイケル・ウォン)に、突然「どハマり」したのです。

そして改めて思い出したのが、この作品の存在。金城ファンのヒロインが中国系マレーシア人に一目惚れなんて、なんだかもう、私のために書かれたような脚本ではありませんか(笑)。しかもネットでさらに情報収集してみたら、ロケ地が光良の生まれ故郷であるイポー市ですよ! これはもう、観ないと駄目でしょう。絶対。

で、実際に観てみたら、予想以上に、純粋に映画として、好みであったというわけです。ネタとして観てみたいなんてこと思って悪かったよ! なんかねえ、本当に初々しく微笑ましい、きゅんきゅんの初恋物語であると同時に、思わず笑ってしまうようなユーモラスかつ心温まる描写もあって。

その一方では、マレー系・インド系・中国系の人々がそれぞれにテリトリーを作って暮らしているマレーシアという国の複雑さとか、民族同士のあいだの溝とかも垣間見られ、でもそこを乗り越えられる希望とか、民族意識に限らず、他人に対する先入観をいったん取っ払ってみると面白いよね、みたいなこととか……とにかく、観ながらいろんなことをぐるぐると考えてしまいました。

ちなみにタイトルのSepet(細い目)というのは、マレー人が中国人のことを指して使う言葉だそうです。まあねえ、金城くんなんかは東洋人にしては、目鼻立ちがはっきりしているほうではないかと思うのですが、それでもたしかにマレー系の人から見れば、そうなんでしょうねえ。このヒロインの子も、すっごいくりくりお目々。かわいいよ。

個人的に、この映画で一番好きなのは、黒髪つややかなマレー系の上流階級のお嬢さま(16歳)と、下町をウロウロしている中国系の茶髪少年(19歳)の恋愛という、波乱万丈の逆風吹きまくり展開にだってできちゃいそうな設定であるにもかかわらず、全体的なトーンとしては、あくまでもごく当たり前の、特別な点などどこにもない平凡な(でも当人たちにとってだけは、かけがえのない、胸躍る)ボーイ・ミーツ・ガール物語として描こうとしている姿勢が見られるところです。途中から二人のあいだにはすれ違いが起こるのですが、そのきっかけだって、決して民族の壁とか周囲の無理解とかそういったものではなく、言ってみれば陳腐な、若気の至りってやつ。

その「陳腐」な展開にかえって、たとえこういう背景を持つ二人であっても「住む世界が違うから、うまく行かないんです」みたいなことは言わせないぞ、という作り手の心意気というか――“祈り”のようなものを感じました。育った環境が違ったって、普遍的な部分は、きっとあるのだ、と。たとえその普遍性が、必ずしもよい結果につながるとはかぎらなくても。

またもちろん、民族の違いを端的に分からせてくれるシーンもたくさんありました。そもそも、言葉が違う! マレー語を話す少女オーキッドと広東語を話す少年アーロン(ブルース・リーもとい李小龍にちなんで父親が名付けたと説明するセリフがあるので、漢字で書くなら「阿龍」なのかな?)は、意志の疎通を英語でおこなうのです。

ていうか、この映画で使われている言語のチャンポンぶりはすごい。香港映画でも広東語と北京語と英語が飛び交い、なんてのが時々あるけど、それ以上。マレーシアって、現実にもこんなんなのか。アーロンは実はお母さんがマレー人と中国人のハーフなんだけど、マレー語で話しかける母親に広東語で返事をしてもしっかり会話が成立してるし。アーロンの親友キョンは福建語のほうが得意なので、同じ中国系なのにアーロンとの会話は英語の割合高いし。

あ、そういえばアーロンの広東語も、香港映画で馴染んでいる、畳みかけてくるようなリズムに乗った広東語とは、ちょっと違う気がした。なんとなくマイルドに聞こえる。マレーシア訛りの広東語なのだろうか? それとも、単なるキャラの違い?

あと、相手が同じでも、突然言語が切り替わったりしちゃうのが不思議。特にオーキッド側のマレー系の人たち。家族同士の会話でも、マレー語と英語がくるくるスイッチしてて、それが、なんだかすごく自然なの。オーキッドの両親なんて、寝ぼけていても英語だったりするし。ほんとに、英語が「共通語」として定着しているんだなあ。そしてそれでも、教育(生活レベル)の差みたいなのが出てきちゃうのが切ない。アーロンも英語は流暢なんだけど、オーキッドに不適切な言葉遣いを訂正されたりするシーンが……。

民族間のギャップのほうでは、アーロンに会うために中華街の軽食堂にやってきたオーキッドが、お店で出されているローストポークを見て「ぎゃっ」という反応をするなんてシーンもあったなあ。イスラム教徒だもんね。

そうそう、この作品に登場する、さまざまな映画ネタも面白かったな。金城ファンのヒロインの初登場シーンからして、すごいインパクトあった。神妙な顔をしてコーランを唱えていた少女が、おもむろに立ち上がり、箪笥を開けると、中は金城くんの切り抜き写真でいっぱい(笑)。ちらっとしか写らなかったけど、おそらく日本の雑誌までカバーしてるよこの子は! マニアだね!

それでね、それでね。露店で映画ディスクを売っている中華系少年アーロンのほうも、なかなかやるのさ。オーキッドとの出会いのシーンでは、彼女がウォン・カーウァイ(王家衛)監督の『天使の涙』で金城ファンになったのに同じ監督の『恋する惑星』を持っていないと知ると、わざわざ追いかけていって「お代は要らないから、これも!」と渡すのですよ。偉いっ。

そうだよねっ!『天使の涙』が気に入ったのに『恋する惑星』を観ないなんて、金城ファン的にもウォン・カーウァイ監督ファン的にも、あ り え な い よね!(がしっ!)

あと、アーロンがオーキッドと付き合っていることを最初よく思っていなかった親友キョンが、恋愛ボケしているアーロンのことを『ラヴソング』(ピーター・チャン監督作品)のレオン・ライみたいだぞ、と揶揄したりとか。わははは、たしかにあの映画のレオン・ライは、やたら口が半開きでめちゃめちゃ「ぽややん」としてました。

でもそのキョンも結局、オーキッドとはジョン・ウー映画やピアノの話題で盛り上がってしまったりするんだけどね。のちにキョンは「オーキッドと知り合うまでは、マレー人のことなんて、特に考えてなかった」みたいなことを言います。同じ国籍でも、テリトリーから足を踏み出すことがなければ、好意や悪意を抱く以前に、存在を気に留めることすらなく暮らしていけてしまうんだなあ。だからこそ、まずは「知り合う」ことから、すべてが始まるのだ。

とにかく、マレーシア初心者には、いろんな側面から新鮮に思うことが多かった。そしてなによりやっぱり、前半のオーキッドとアーロンの初々しいやりとりが、本当にキュートでよかった。私のなかで、大切な作品という位置付けになりました。

平日の映画祭のチケット取りはヒキコモリな私にはハードル高かったけど、もしも一般公開されたらぜひともスクリーンで観たいし、もしも日本語字幕付きのDVDが出たら、絶対に買いなおすつもり。


《追記》
2007年8月に、日本語字幕版を観てのコメントを追加しました。

Posted at 22:05 | 個別リンク用URL | コメント (0) | トラックバック (0)

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All texts written by NARANO, Naomi.