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2006年11月12日

ウィンター・ソング

映画・テレビ

2005年の香港映画。
原題:如果・愛/Perhaps Love
監督:陳可辛(ピーター・チャン)
出演:金城武、周迅(ジョウ・シュン)、張學友(ジャッキー・チュン)、チ・ジニ
公式サイト:http://www.winter-song.jp/

初日である11月11日の朝から映画館に行ってきました。中国語圏での公開からほぼ1年遅れ。これまで何度も「もういっそ英語字幕付きの香港盤DVDを買ってしまうか?」と心を揺らしつつ、「いやいやいや、最初はスクリーンで観たい!」とぐっとこらえてまいりましたが、ついに日本のシネコンで、日本語字幕で、観ることができました。

待っててよかった。これ、やっぱり大画面で隅々まで観たい映画だわ。俳優(金城くん)と女優(ジョウ・シュン)と映画監督(ジャッキー・チュン)が出てきて、劇中劇でミュージカル映画を撮影しているんですけど、そこのところの西洋趣味と中華風味の融合した迫力の群舞シーン(振り付け師はインドの人なんだって)なんて特に。いずれ国内盤のDVDが出たら買うのはもう決まりだけど、先入観のないうちに大きいスクリーンで観ておけてよかったです。

そして……。こういうこと書くと、「ええー!?」って思われそうな気がするんですけど。実は1995年に観た『恋する惑星』以来11年ぶりに、「金城くんを銀幕で観られて嬉しい」という気持ちよりも、純粋に「面白い映画を観られて嬉しい」という気持ちのほうがはっきりと上にくる金城くん出演作品でした。自分でも、ものすごく意外なことに。

いや、今まで観たほかの金城くん映画がアレだったということじゃなくて。ただ今までは、作品全体としてどう評価するかというところとは、まったく別の次元に、「でも結局のところ私は、金城くんがカッコよく撮れてさえいれば、それでオッケーになっちゃうんだよなあ」という評価軸があったんですね。それが今回、少なくとも観ているあいだはそういうふうな視点が出てこなかったってことです。

もちろん、そもそも金城くんが主演じゃなかったら観に行くことはなかったと思うんですが。そしてもちろん、この映画の中の金城くんも、とても素敵なのですが。

最初は、しばらく金城くん映画の新規公開がなかったので、ちょっと愛が薄れたのかしら、今年は新しく別の芸能人のファンにもなっちゃったし……と思ったりもしましたが、じっくりと考えてみて、やはりそうじゃない、という結論に達しました。うーん、どう言えばいいんでしょう。すべてのキャストとストーリーのバランスがとてもよいからってうのが近いかなあ。いい意味で、金城くんが作品の中で(ファンの欲目で見てさえも)目立ちすぎてない、浮いてない。そしてまた、「金城くん素敵♪」なんてこと考えてる余裕がないくらいに、私にとっては、この映画そのものの存在感が強かったのです。

しかしながら、日本でのこの映画の宣伝文句、あれはどうなんだ?「今、あなたに贈る、10年分の涙」とかさあ。ちょっとイメージ違うように思った。このキャッチフレーズで、「ストレートに泣ける美しい純愛物語」を期待していった人は、肩透かし喰らうんじゃないか。

映画の構成は、ちょっとだけ複雑です。映画の中でさらにミュージカル映画が撮影されているわけですから。ミュージカル映画の外側には、それに出演する俳優たちの現在と過去があり、撮影が進むと共に、彼らにとっての現実とミュージカル内のストーリーが交錯していく。そしてそのフレームのさらに外側から、時にさりげなく介入しつつ、すべてを見守る高次の存在「天使」(チ・ジニ)がいる。そしてさらにさらに外側からは、私たち観客が、その天使をも含めたすべてを鑑賞している……という入れ子になったメタ構造。

まずは、そこが面白い。単純に何も考えず、センチメンタルなラブストーリーに身を委ねて酔い痴れたい人には、不向きかもしれないけれど。ついでに言えば、この作品の中核にあるラブストーリー自体が、決して分かりやすいセンチメンタルなものではないように思います。そこを面白がれるかどうかで、この映画の評価って、すごく分かれそうな気がします。

ストーリーの序盤に、ジャッキー・チュン演じる映画監督と、プロデューサー(エリック・ツァンだった! 出てるって知らなかったのでびっくりした!)とが、議論をする場面があります。ミュージカルの中の三角関係にリアリティがない……という監督の悩みを、「観客が求めているのは分かりやすいラブストーリーだからそれでいい」と切り捨てるプロデューサー。言い返せないけれど納得のいってない表情の監督。

それはそのまま、現実にこの『ウィンター・ソング』という映画を撮っていたピーター・チャン監督の悩みでもあったのでしょうか。ついつい、連想がつながってしまいます。

なぜなら、これまで私は、ほかならぬこのピーター・チャン監督の恋愛映画で、「そんなの現実にはありえないけど、本当にあったら素敵だなあ」というストーリーを楽しんで、幸せな気分になっていたから。

男でも女でもかまわない、好きなのはきみそのものだよ……と、このうえなく色気のあるレスリー・チャンが性別を偽っていたアニタ・ユンにささやきかける、『君さえいれば (金枝玉葉/He's a Woman, She's a Man)』。遠く故郷を離れた地でたまたま出会ったマギー・チャンとレオン・ライが、最初から最後まで、離れ離れになってもどこかでつながりが切れずに運命のふたりでいつづけることができた、『ラヴソング (甜密密/Comrades, Almost a Love Story)』。途中でさまざまなホロ苦い思いをしつつも、ストーリー展開に重みを感じつつも、しみじみとした余韻を残しつつも、それらは結局のところ、あくまでも「素敵だなあ」と、ほんわか幸せ〜な気持ちで見終えることのできる映画たちでした。

それと比べれば、今回の『ウィンター・ソング』のエンディングでは、10年のあいだ引きずった愛憎や、男2人女1人による三角関係のもつれが解消されて結論が出たあとの、清々しく前向きな空気のなかに、はっきりとビターなものが混じっています。ただ、そんな顛末を「天使」(と、パンフには書いてあったんだけど、映画を観ただけじゃ“普通のヒトじゃない”ってことくらいしか分かんないって! 羽根ないもん!)の視線がほんわりと包んでいるので、そこにシンクロして、やさしい気持ちで観終わることができるという仕組み。天使をやっていた韓国人のチ・ジニさんってこの映画で初めて見ましたけど、嫌味のないさらりとした容貌で、この役にハマってます。

これが、『ラヴソング』から約10年後のピーター・チャン監督が撮った恋愛映画なのか――というのは、感慨深いものがありました。もはや「そんなことが本当にあったら素敵だなあ」ではなくて、「そんな素敵なことがなくたって、人は自分で自分のゆく道を選択しながら生きていけるし、生きていかなくちゃいけないんだ」みたいな。今のピーター・チャンが、エンターテインメントとして成立させるために必要な虚構性をすれすれまでリアル側に押し進めた結果が、これなのか、と。

ところで、そんななかで一番、ある意味リアルじゃないと思ったのは、ジャッキー・チュン(笑)。作中では映画監督として登場するのに、最初に考えていた俳優が来ないとなると突然「その役はオレがやる!」なんて自分もミュージカル出演者の一人として出張ってきて、しかもほかのキャストを差し置いてひときわ歌が上手い。もうね、ほかの人たちと、声量も歌唱力も全然違うの。別世界なの。どんな映画監督だよ!

日本では映画出演による知名度のほうが高いと思われるジャッキー・チュン(ジャッキー・チェンじゃありません←うちの夫がこのあいだ間違えていたので念のため書いておく)が、香港では「歌神」の異名を持つ本格派の歌手であるということは、知識としては分かっていたのですが、ちゃんと歌を聴いたことはこれまでありませんでした。すっっごいねえ(ため息)。ミュージカルのパートになった途端、耳も目もジャッキーさんに持っていかれてたってかんじです。映画全体のなかで一番心を揺さぶられたのは、虚構の中のそのまた虚構である、ミュージカルのクライマックスでのジャッキーさんのシーンでした。

そういう意味では、もしかしたらジャッキーさんのファンの方々にとってはこれ、たとえストーリー自体が楽しめなくても、ジャッキーさんがいつもの持ち歌とはちょっと毛色の違うミュージカル・ナンバーを朗々と歌っているという、ただそれだけでものすごく価値ある映画なのでは、なんてことを思いました。金城くんも主役として頑張っているし、歌も悪くないんだけど、とにかくもう歌に関しては「格が違う」としか言えません。

ああでも、そうそう、正直ちょっと耳にするのが怖かった(こらこら)金城くんの歌もね、ほんとのほんとに悪くなかったんですよ! 現役アイドル歌手やってた頃より、いいんじゃないの? 少なくとも、映画の中でのそれぞれの場面にふさわしい歌い方だったし、アイドル時代に歌っていたラブソングより、よっぽど情感がこもっていたようにも思います。それは、金城くんが「アイドル歌手の金城武」としてではなく、「ミュージカルに出演する俳優の役をやることになった俳優の金城武」として演技をしながら歌っていたからなのかもしれません。つまり、やっぱり“俳優”なんだよな、この人は……と。すんごく、いまさらですが。

Posted at 2006年11月12日 20:22

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トラックバック時刻: 2006年11月20日 19:47

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金城武が全ての映画です香港映画が相変らず苦手なワタクシ。しがしながら武迷の悲しいさが観ずには居られん。しかもこの日は寝不足の為、睡魔と闘いながらの鑑賞(爆)ま、... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年11月25日 06:48

コメント

ならのさん、ご無沙汰いたしました。
金城君の映画の時だけ出てくるものですから、もうお忘れかもしれませんね。
(別に他意はないです<汗>)

10周年なのですね、おめでとうございます。
ということは「ラブソング」の頃から始められたのでしょうか。

この映画は本当に長いこと待ちました。
私はDVDも買わず、やはりスクリーンを待ち続けていましたが、公開が待ちきれず、今回は試写会に2度も行きました。で、結果的にはそれでよかったと思いました。というのもあまりにも盛りだくさんで、私の場合は2回観てやっと理解できたからです。

そして3度目に何とも言えない感動がやってきました。「ウィンター・ソング」という名前とあの宣伝からはちょっと想像できないほどずっしりとした見応えが。いやぁ、本当にいい映画です。
中国語がわかればなぁとこれほど悔しかったことはありません。

回を重ねるごとに、3人それぞれの気持ちがじわじわと胸に迫ってきて、苦しくてつらいけれど、それだけに最後の3人の光が射したような表情に神々しささえ感じたし、人はこうして強く生きていけるんだな、
なんてすごく納得してしまいました。
でももしかしてこれは多分私が今の年齢だからかも。
私が20代とかだったら無理だったかもしれないと思ったりしました。

個人的には金城ファンなわけなので、内容が頭に入ったら画面に集中して観られるようになり、彼の並外れた美しさもさることながら、グレードアップした演技(特に目の表情)なども堪能しました。
それに歌も♪スクリーンで彼が歌う姿を見ることができたのは、本当にラッキーだったと思います。
話す声もいいけど、歌う声もまた良かったし、
それに前よりうまくなったような気がしますよね。

なんか、べた褒めですみません。
でも進化し続けている感じがして、うれしかったんですよね。

それでですね、次のトニーとの「傷城」、それから、その次のなんと!ジェット・リーやアンディとの「刺馬」もめちゃくちゃに楽しみです!
この「刺馬」どうやら最後はあの冒険王コンビの対決になるのでしょうか?!今からワクワクしています。

本当はもっと書きたい事があったのかもしれませんが、あまりにも長いのでこのくらいにしますね。
お邪魔しました。

投稿者 はける : 2006年12月 1日 17:14



はけるさん、お久しぶりです!
もちろん、はけるさんのことは忘れたりなんかしませんよ!

>10周年なのですね、おめでとうございます。

ありがとうございます。あ、そうか10年前って、ちょうど『ラヴソング』の頃なんだ!
当時は、まだその前年に『恋する惑星』で金城くんとウォン・カーウァイを知ったばかりで、香港映画に対するアンテナは鈍かったです。『ラヴソング』も、観たのはビデオ落ちしてしばらく経ってからでした。

ウォン・カーウァイ映画を初めて知ったときも、ものすごい衝撃を受けたんですが、ピーター・チャン監督のこの『ラヴソング』でも、うわあああ……すごい映画だ!って思いました。

そのピーター・チャン監督が金城くんを主役に起用、ということで、私も本当に本当に、スクリーンで鑑賞できる日を心待ちにしていました。アジア全土であれだけヒットしたのに、日本公開に漕ぎつけるまでこんなに間が空くとは思わなかったですよね。


この感想文を書いたあと、もう一度、観に行ってきました。2回目鑑賞では私も、すでに映画の構成が分かっていて画面に集中しやすかった分、感情移入が激しくって、やたらあちこちのシーンで涙が込み上げてきてしまって困りました(苦笑)。
1回目鑑賞後の感想文では「泣ける話じゃない」みたいなこと書いたくせに>私。

はけるさんと同じで、私もこれって、もっと若い頃に観ていたら、ここまで胸を衝かれることはなかったように思います。むしろ、消化不良な気持ちで観終えることになったかも。でもこういう映画をじっくり味わえてよいと思えるようになるなら、歳を取るのもけっこう悪くないものですよね?(笑)

金城くんも、ほんとにすごくよかった。
本当に、「進化」してると私も感じましたよ!

それと、私がピーター・チャン監督びいきだから余計に思うのかもしれないけど、なんかこの映画の金城くん、どこか今までとは一線を画しているような気がしました。

だからこそ、これからの彼の仕事にも、非常に期待しています。
私は『インファナル・アフェア』のことを、21世紀に入ってからの香港映画の最高峰とまで思っているので、同じ監督の『傷城』ももちろん楽しみですし、そしてそのあとの『刺馬』は、またまたピーター・チャン監督とのお仕事!

ピーター・チャン監督で時代物アクションなんて、最初はびっくりしましたが、それだけに、またまたこれまでにないものが見せてもらえるのではないかと、わくわくしています。

映画撮影のため(ですよね?)に伸ばしたお髭も、意外なほど似合ってましたね>金城くん。彼もこういうヒゲが似合う年齢になったのだなあ、なんて、初めて『恋する惑星』を観た11年前を思い出して、しみじみしたりして。11年経っても、ちゃんと俳優としてお仕事が続いていて、しかもどんどんステップアップしていて、経過した年月に応じた魅力を発揮してくれているのは、本当に嬉しいことですね。

うわー、私もなんか、めちゃめちゃ語ってしまいました。すみません。

最近ちょっと浮気(?)気味で金城くんごめん……って思っていましたが、まだまだ愛はありそうだな、うん。大丈夫(って、何が大丈夫なんだか>私)。

投稿者 ならの : 2006年12月 2日 02:40



ならのさん、早速お返事ありがとうございます!
お忙しいなかレス下さったのが、時間を見てもわかります。でもうれしいです。

そうですよね、ならのさんは『恋する惑星』で香港映画や金城君に入っていったのでしたね。この頃思うのですが、金城君のファンは結構いろいろ他の人たちのことも好きだけど、何だかやっぱり心の片隅には金城君がいるというか、「ああ、やっぱり好き」とか思っている人が多いような気がします。

実は私、9月のイベントに行ってきたのです。
上のほうで見ていただけなのですが、あの時のあの場所を包んでいた空気が本当に温かいもので、その何とも言えない温かさは“おそらく愛”ではなくて“まさしく愛”っていう感じでした(笑)

ピーター・チャン監督とお仕事をして自身をもらったと本人が言っていましたね。
これが大きかったのだと思いますね。
彼にとっては、もしかするとそれだけで充分だったかもしれないです。
それで『刺馬』もその延長線上に。
髭や剃りこみが嫌いな人もたくさんいるみたいですが、私などは「何でもやって下さい!」と思ってしまいます。

『傷城』でトニーと共演して大変刺激を受けたようですし、これからまたジェット・リーやアンディと演技することで更に得るものがたくさんあるでしょう。
そういう経験を全部肥やしにして、またまた進化してもらいたいです。いえ必ず進化しますよね。

そしてウォン・カーワイ監督ともいつかまた一緒に映画を撮ってほしいんです。もしそういうことになったら、今度はどんなことになるのか、ドキドキですけどね。

またまた語ってしまいました。
久しぶりだったものでお許しください。
また寄せていただきますね。

投稿者 はける : 2006年12月 2日 08:31



はけるさん、こんばんは。
えっと、前回の書き込みの時間帯については、週末の開放感でうっかり夜更かししていただけなので、お気になさらず。

そうそう、「やっぱり心の片隅には」って、まさしくそうかも。
なんだか、ほかで盛り上がっていても、金城くんを好きというのは「デフォルト設定」みたいな気がします。というか、ずーっとファンだったので、もう「金城ファンでない自分」って想像できないような……。

9月のイベント、行かれたのですね。あれ、アナウンスから当日までの日にちが短くて、私は残念ながら都合つかなかったのですが、あとで報道映像を見ただけでも、あの場のなんとも温かい雰囲気がしっかり伝わってきました。

そして、私も「何でもやってください!」派です(笑)。どんと来い!

ウォン・カーウァイ監督が、30代になった金城くんを使うとしたら、どういうふうに使うだろう……っていうのは、私もすごく興味あります。また一緒にやってほしいなあ。

投稿者 ならの : 2006年12月 2日 23:21





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