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2007年8月17日

傷だらけの男たち

映画・テレビ

2006年、香港映画
原題:傷城/Confession of Pain
監督、製作:アンドリュー・ラウ
監督、脚本:アラン・マック
脚本:フェリックス・チョン
出演:梁朝偉(トニー・レオン)、金城武、シュー・ジンレイ(徐静蕾)、スー・チー(舒淇)他

日本での公開日は、2007年の7月7日でした。そして私は、その7月7日、つまり初日に、張り切って映画館に行ってきたのでした。なのに今まで感想を書かずにきちゃって、なんだかちょっと、我ながらファンとしてどうなのよって気持ちでいっぱいです。

言い訳させてもらえるなら、これ、エンドロールまで観た瞬間に「ああ、絶対にまた観に来なくちゃ」って、思ってしまったのですね。あれこれ再確認したいところがあって。だからここに感想を書くのも、せめてもう一回、観てからにしようと思っていたのです。なのに、日々の生活に追われていたら、いつのまにか上映、終わってる! うわーん! 早くDVDが出てくれないかなあ。

というわけで、いまさらながら、映画館から帰ってきた直後の殴り書きメモと、脳内のおぼろげな記憶に頼って、この映画について思うことを、つらつらと書いてみますよ。気になってたところが確認できずじまいなので、後日DVDで観たらまた違うふうに考えてしまうかもしれないのですが。

*

さて、ちょっぴり邦題が恥ずかしい本作品は、大ヒットした(そして私もものすごく思い入れしている)『インファナル・アフェア』の製作チームの新作。『ディパーッテッド』としてハリウッドでリメイクされた『インファナル……』に続き、これもレオナルド・ディカプリオ主演でハリウッドでリメイクされることが決定しています。男優2人のダブル主演というところも、『インファナル……』を彷彿させなくもない。でも、映画全体のトーンは、最後まで観てから振り返ると、かなり違ってました。

3年前に恋人が自殺したショックで、刑事を辞めて私立探偵になり、アル中状態で飲み歩きながら死んだ恋人の自殺の原因を探りつづけているのが金城くん。

金城くんの元ボスで、現在も何かと金城くんを気にかけつつ、富豪の娘との新婚生活を満喫しているベテラン刑事が、トニー・レオン。

トニーの義父である富豪が屋敷内で惨殺されたことで、順風満帆だったトニーの家庭生活にも翳りが見え始めます。事件の表向きの解決に納得のいってないトニーの妻が、金城くんに事件捜査を依頼し、金城くんは調査に乗り出しますが、必然的に、長年敬愛してきたトニーをも容疑からはずすことはできません。

事件の真犯人は、わりと序盤のほうで、観客にはあっさりとバラされてしまいます(犯行シーンがそのまま出てくるし)。あとは、いつどうやって金城くんがその結論に辿りつくのか、犯人は金城くんの捜査が進むようすを確認しながら、どんなふうに何食わぬ顔を続けているのか。そして、犯行の動機は、観客にも最後の最後まで提示されない。ミステリの区分で言うなら、「ホワイダニット」ってやつですね。

その辺の、ミステリ映画としての伏線のめぐらせ方は、少なくとも最初に観たかぎりでは、かなり手堅いというか律儀な作りです(一緒に観た同居人A氏は、謎解きシーンでミステリチャンネルのテレビ番組「安楽椅子探偵」を連想して笑っちゃった……とか言ってました。ほっとけ!)。

ただ、映画そのものの主眼は、登場人物たちの抱える「傷」にあるのだと思う。すべての主要な登場人物が、心の奥に傷を持ったまま、それを忘れることを選ばず、執拗に舐めまわすようにして生きている。邦題にある「男たち」だけじゃなく、お嬢様として恵まれた生活をしてきたはずのトニーの妻(徐静蕾)や、金城くんが酒場で出会うさばさばした女の子(舒淇)にだって、きっと心の奥にしまいこんだ傷がある。「傷ついた街」を意味する原題のとおり、香港の街並みそのものが、彼らの目を通したとき、どこか殺伐として傷ついているかのように見える。

そしてその傷を抱えた状態にありながら、それでも前に進める者と、進めない者がいる。その対比が、さりげなく、しかし鮮やかに描かれる。そういうお話です。

うわわわわ。どうしよう、これ。

去年の『ウィンター・ソング』のときは、「映画としての面白さ」が「金城くん萌え」を上回ってしまった……みたいな感想だったんですが。

今回は「映画としての面白さ」と、「金城くん萌え」が拮抗して、見終わったあとの感情が収集つかなくなってしまっていました。心の中で嵐が吹き荒れてオーバーフロー状態、みたいな。この映画の金城くん、どのシーンでも哀愁があってめちゃくちゃカッコいいんですよ! 無精ひげを生やしたロレツのあやしい酔っ払いのくせに!

そしてまた。対比的な位置付けのキャラであるトニー・レオンがすごすぎて、「格の違い」をまざまざと見せ付けられた……という面でも、衝撃的でした。金城くんなんて、トニーの前では、役者としてはほんとにヒヨッコなんだなあ……ということを実感してしまって、そういう意味では、ファンとして心の痛い映画でもありました(すみません、でもこれが正直な気持ち)。

金城くんも、ものすごい頑張ってるし、ものすごい美しく撮ってもらっているんです。最近観た金城くん映画の中では、ピカイチくらいに光っていたと、声を大にして言いたい。うん、この金城くんは、本当にすばらしい。『ウィンター・ソング』で、今までと一線を画しているなあ、なんて思った記憶が、かすんでしまうほど、この金城くんはさらに一皮むけている(単に私の好みがこっちってだけかもしれませんが)。

でも、だからこそ。こんなに金城くんがパワー全開なのに、それでも結局は、トニー・レオンが場面をさらっていくのか……というのが、もどかしいったらもう。うぐぐぐ。

トニー・レオンは最初、「私立探偵」役でオファーを受けていたのだけれど、脚本を読んで、自分は「ベテラン刑事」のほうをやると言ったのだそうです。このキャスティングは、悔しいけど正解だったと思う。

最終的に金城くんが担当した、アル中になってどん底まで落ちたかと思わせつつ根っこのところでは健全なものが保たれていて、チャンスさえ与えられれば前を向くことができる「私立探偵」のような役、トニー・レオンなら、こっちにキャスティングされても、きっと完璧にこなすと思うのですよ。容易に想像できる。

でも、一見、光の当たるところで生きようとしているように思えても、究極的には精神の奥底に潜む歪んだものを拭い去ることができてない「刑事」の役どころを金城くんに振られても、きっと金城くんは、実際に仕上がった映画におけるトニー・レオンのような、淡々とした表情のなかに、ふとすさんだ陰がよぎって……みたいな凄みは出せなかっただろうなあ、もっと、あからさまで表面的なかんじに仕上がっちゃったかもしれないよなあ……って、どうしても思ってしまうのだ。大体、トニー・レオンが当初の予定どおり私立探偵をやっていたら、対峙するポジションに金城くんが置かれることなど、なかったでしょう。

金城くんは今も昔も、どんな役をやっても、どっかどうしても、「まっすぐ」で「ピュア」なものが、否応なしににじみ出てしまう俳優であるような気がしてねえ。そこが、金城くん自身の魅力になってもいるんだけど。

いやでもしかし、金城くんとトニー・レオンじゃ、タイプもキャリアも年齢も違うからな。金城くんも、今までの歳の取り方は決して悪くないと思うので、今のトニー・レオンの年齢(45歳)になる頃には、きっともっと演技の幅を広げて成長していることでしょうし、そもそも、すべての俳優がすべての役をこなす必然性だってないんだよね。なんでもこなせることよりも、one and onlyであることのほうが、ずっと大事なんだよね。

ただとにかく、トニー・レオンはすごい、と改めて思いましたよ。

なんせ金城くん自身が、最初から対等に張り合おうなんて思ってないことは明白だし。映画を観終わったあと、パンフを読んだらさー。金城くんってばインタビューのページで、トニー・レオンとの共演体験について訊かれて、相手を大絶賛しちゃってるに留まらず


Q. トニーが心で演じる芝居は刺激になりましたか?

A. それはあったね。(中略)トニーの芝居を見れば、それはもう素晴らしいと思うよ。彼と脚本について話し合う時、絡みの芝居の時、僕は彼の目を直視できないほどさ。とにかく魅力的で、尊敬もしているし、あの穏やかな雰囲気がすごく好きなんだ。

Q. 彼を見るだけで、「うわぁ」という感じなのですか?

A. そうだよ。まともに見られないんだ(笑)。どうしてかわからないけど。


って。まともに目も合わせられないくらい、まぶしい存在なんですか! アンタそんな、お腹を見せて全面降伏しているワンコみたいなことを……(苦笑)。

実際、映画の中でも、ほんと「トニーの懐を借りて演技してます」ってかんじに見えたシーンがいくつもあったんだよなあ。役柄上も金城くんはトニーの「元部下」だし、年下だし、友人同士でありながらも言ってみればトニーのほうが目上の存在なわけなので、それはけっこう、いいかんじでもあったんだけれど。

ちなみに、トニーのほうは、同じページのインタビューで、金城くんの印象を訊かれて


A. とにかく面白いんだ。話をしているのを聞いてるだけで面白い。「もうご飯は食べた?」と聞かれて、「食べたい」と答えるんだ。食べたのか、食べていないのかを聞かれてるのに「食べたい」だよ(笑)。


という、お答えでした。それって、ひとことで言えば“天然不思議ちゃん”ってことなのでは? どっかズレてる後輩を、「しょうがないなあ」と見守るオトナなトニーさんの図が浮かんでしまうよ。でも、微笑ましいな、そんなやりとりと、そこで鷹揚に好意的にウケてくれるトニーさん。

まあとにかく、これ、映画としては、かなり好みの部類です。スタッフがスタッフだけに、期待値はかなり高かったのですが、失望することなく鑑賞できました。

でも『インファナル・アフェア』に比べると、地味な印象かな。PG-12で、けっこう残虐なシーンもあるんだけど、『インファナル・アフェア』シリーズみたいに、ばーんと派手な展開、どーんと落とされるような衝撃はない。あとからじわじわと効いてくるような映画。

あと、2人の主演男優が物語上も演技上も同じレベルで張り合っていた『インファナル……』のようなシャープさや緊迫感、登場人物たち(そして観客)を容赦なく追い込んでいく息が詰まるような閉塞感がない代わりに……なんていうんだろう、その逃げ道が許されている物語の構造的な「ゆるさ」が、かえって、観る者にとっても「風穴」、「救い」になっているというか。

そして、街中が疲弊しきったかのように見える「傷城」の世界にあって、その「救い」となる風穴の部分を担っているのは、明らかに金城くん演じる私立探偵のポン、そしてポンが浮上するきっかけを作ったフォン(舒淇)なんだよな。上述の、どんなに薄汚れて見える役柄を演じても、どこか物質的な意味に限定されない育ちのよさ、性根のまっすぐさが出てしまう金城くん自身のキャラが、うまく活かされているかんじがしました。だから、あのとってつけたような(笑)、映画全体のトーンからはあからさまに浮いてるラストシーンは、やはり必要だったのだと思うよ。

Posted at 2007年8月17日 10:15

コメント

ならのさん、残暑お見舞い申し上げます。
7月はこの映画に通いつめた私です。
ならのさんがご覧にならない訳がないと勝手に思っていたので、
感想を楽しみにしていました。
もう一度観てから、というならのさんの気持ちよくわかります。
私も2度くらい観ただけでは、気持ちがいっぱいで、言葉になりませんでした。
作品の面白さ、監督の力、役者の素晴らしさ、等・・
それで最後に思うのは、金城君、今までにいろんなことを乗り越えてきたことが無駄ではなかったな、ということでした。感無量。
もちろんトニーさんの演技も素晴らしかったですが。

何度も観て来たのに、私もDVD楽しみです。
ですが、シネマート六本木では24日までやっているようですよ。お忙しいと思いますがよろしければもう一度スクリーンで!

投稿者 はける : 2007年8月19日 10:54



はけるさん、おはようございます。
お返事が遅くなってしまってごめんなさい。
いつもコメントありがとうございます。


> ならのさんがご覧にならない訳がないと勝手に

私も、上映スタートのずっと前から「私が観ないわけないじゃん」って思ってました(笑)。なのに、1回しか行けなくて悔しいです。ほんとにこれ、何度でも、観たかった。

六本木では、24日までやってるんですね。しかし、8月はもう身動き取れないのですよ(涙)。でも情報ありがとうございます。

金城くんは、なんだか最近、1作ごとにどんどんどんどん新しい面が出るようになってるなーって感じます。いや、今までだってそうだったんでしょうけれど、ものすごく顕著になったというか。私も感無量でした。

いろんな角度から、思うところが多くて、ほんとうに言葉であらわすのがもどかしい映画でしたね。

投稿者 ならの : 2007年8月21日 09:10





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