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2007年10月31日

2007年10月に読んだものメモ(後)

読了本 | 書籍・雑誌

と、いうわけで「(前)」のつづき。普段よりちょっと冊数が多いとはいえ、こうやって列挙してみると、小説本は少なかったなあ。


小倉千加子『宙(そら)飛ぶ教室』(朝日新聞社,2007年8月)
 初出『一冊の本』2005年7月号〜2007年4月号。カテゴリーとしては身辺雑記エッセイ? 大学の先生なんだと思っていた小倉さんが、連載の最後のほうから突然、保育園の先生にもなっていて驚いた。
 なんだかんだ言っても、小倉先生の書いているものを読んで思うのは、少なくとも現在の先生は、周囲に対する目がとてもやさしいよなあ、ということです。そしてそのやさしさには、諦念も混じっているのかもしれないということです。本当は、置かれた状況に甘んじている者に対して、もっと闘えと発破をかけたいのかもしれない、でも「闘う素質のない者」や「闘わなくても幸せにやっていける者」に発破をかけることの危険性にも、気付いてしまっている。だからこそ、異端となってでも闘う者に注ぎ込む思い入れは大きくなっていく、そんな印象。
 そして、この本で象徴的に何度も登場する「異端者・闘う者」代表が、小倉先生がファンでいらっしゃる元宝塚宙(そら)組のトップスター和央ようかさん(と、その相棒の娘役で、引退後も彼女をサポートする花總まりさん)なのだという気がしました。宝塚の舞台はまったく見たことがないのですが、情熱を込めた宝塚論と、その一方で同好のほかのファンほど無邪気に熱くはハマれないでいる、どこか冷めた分析的な部分とが拮抗しているさまが、僭越ながらなんだか分かる気がするなあ、と。【Amazon.co.jp】


中島たい子『そろそろくる』(集英社,2006年3月)
 小説。周期的にやってくる、自分では制御できない感情の荒波に振り回されていたイラストレーターの主人公が、PMSという言葉と出会う(PMSの意味が分からない人はGoogle先生に聞いてみよう)。傍目からは単なる我儘とも捉えられかねない理解不能な「現象」であったものが、実は「症状」であって、ある程度は「対処」が可能なんだと分かるだけでも、気持が軽くなるよなあ、ということを改めて思いました。【Amazon.co.jp】


春日武彦『本当は不気味で怖ろしい自分探し』(草思社,2007年5月)
 高橋秀実の『素晴らしきラジオ体操』を読んだあと、著者名で検索をかけていて、高橋さんと春日さんの対談に行きあたったら、ここでトピックになってる本も読んでみたくなった。ゆるゆると肩の力が抜けているようで、実はある種の人びとに対してはかなり辛辣。かと言って、決していわゆる「上から目線」ではないところが、器の大きい人なんだなあ、という印象。
 すごくツボにハマったフレーズがたくさんあった。【Amazon.co.jp】


藤田香織『やっぱりだらしな日記+だらしなマンション購入記』(幻冬舎,2003年10月)
 1冊目の『だらしな日記』のように、びっしり毎日じゃない分、ほんとに「壊れた」日の記述はなかったりするみたいなので、こっちはまだ心臓にはやさしいかんじ(笑)。ダイエット効果で食べ物への情熱が増して、食事記録がちょっとしたレシピ集みたいになってる時期もあるので、お腹は1冊目を読んでたときよりさらに空きました。ふらっと看板につられてショールームを見に行った先で衝動的にマンションを購入しちゃった話は、やっぱりすごい。
 でも、断食合宿で食べるという行為を見直したり、新しいマンションでペットを飼い始めて生活が変わったりと、徐々にいろんなことが前に進んでいるかんじ。【Amazon.co.jp】


永井するみ『ドロップス』(講談社,2007年7月)
 1つ目のお話の脇役が、次のお話の主人公になって……というような形式で続いていく、さまざまな立場にある女性たち4人の、とあるコンサート開催までの日々を描いた連作短編集。それぞれが、傍目からはカッコよく見えていたり、なのに内実は、けっこう悩んでいたり。そーゆーもんだよね。主役のうちの1人が、突発性難聴になってた。って、そこを特筆するのか私。【Amazon.co.jp】


能町みね子『オカマだけどOLやってます』(竹書房,2006年10月)
 人気ブログを書籍化したもの。「性同一性障害」という診断は受けているけれど、本人としては「障害」という言葉からイメージされるほど、不幸を背負ってるつもりはないよ、という気持ちを込めての「オカマ」自称なのだそうで。
 その宣言(?)どおり、からりとした文章と適度に肩の力の抜けたイラストで描かれるOLになるまでの道のりと、その後の日々。ものごとに対する感覚を、すごく的確かつ簡潔に面白く興味を引くように伝えられる人ですね。豪快かつピンポイントな突っ込みの入れ方とか見てると、すごく細やかなところに気がつく人なんだろうなあ、と。性同一性障害関係の本は、これまでにも何冊か読んでいるけど、本当に人それぞれっぽい。性認識って、実はグラデーション。【Amazon.co.jp】



以下、漫画本。


高津カリノ『WORKING!!』第4巻(ヤングガンガンコミックス,2007年10月)
 濃いキャラクターがそろうファミレス4コマ最新刊。恋愛方面のネタがついにいろいろ盛り上がるのか……と思いきや、案の定ぐだぐだに(笑)。楽しませていただきました。【Amazon.co.jp】


森薫『エマ』第9巻(エンターブレインBEAM COMIX,2007年9月)
 番外編集、第2弾。なんかこう、「とにかく、こんなの描きたい!」という思いつきで突っ走って描いてるんじゃないかなあって雰囲気。したがって「だから、何?」みたいなかんじになっちゃってるエピソードもあるんだけど、やっぱりこの人の作品は、そんな野暮なこと言わずに、その「情熱」に当てられながら読むのが正しいのだろうな。最初のお話の一連のリス視点のコマがダイナミックで好きだった。【Amazon.co.jp】


こうの史代『夕凪の街 桜の国』(双葉社,2004年10月)
 「ヒロシマ」を語るのに、こういうアプローチがあったのか! 出てすぐの頃から、ずいぶんと話題になっていた作品なので、いまさら私があれこれ言うこともないのですが。というか、これは……ちょっと読んだだけでは、おいそれと感想なんて書けないなあ、本当は。読むたびに、新たな面に気付いてしまいそうで。間接的な表現に留められていることが、あまりに多くて。淡々とした静かなトーンの作品なのだけれど、実はものすごく饒舌とも言えるんじゃないだろうか。
 絵柄も、少し懐かしいかんじで一見やさしく素朴だけど、丹念に計算され丁寧に描き込まれています。読み進むうちに、だんだんとページをめくる速度が遅くなる。原爆が投下されたときのことそれ自体を直接的に示すのではなく、ごくごく普通の人たちの世代を超えた「その後」を、抑制された表現で見せていくことで、当事者以外の者たちには単なる日常のひとこまとしか見えない光景であっても、その表面をぺろりと一皮むけば、まだ深い爪痕が残っているのだと、語りかけてくる。あれは顔も分からぬ相手に対する、明確な殺意であったのだと、改めて訴えかけられて、すう……っと、背筋が寒くなる。それでも、最後のコマで描かれる「平凡な日常」への回帰は、明るく、なんのへんてつもなく、だからこそ、希望と強さが感じられて美しい。
 うーん、何を書いても、ピントずれてるような気がしますが、とりあえず、印象メモとしてはこんなかんじで。【Amazon.co.jp】


吉野朔実『本を読む兄、読まぬ兄 吉野朔実劇場』(本の雑誌社,2007年6月)
 初出『本の雑誌』2004年11月号〜2007年6月号。読書エッセイ漫画(という、くくりでいいんだろうか?)シリーズの新しいの。相変わらず、守備範囲が広いなあ。そして、目のつけどころが、さすが。何か、このシリーズを読んでると、ちょっとしたことが、すごく特別にキラキラして見えちゃう。まあ、私が、中学時代から吉野さんのファンだからっていうのもあるかもしれないんだけど。【Amazon.co.jp】

Posted at 2007年10月31日 23:18



All texts written by NARANO, Naomi. HOME