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2008年1月 9日

北村想『怪人二十面相・伝』/『怪人二十面相・伝 青銅の魔人』

読了本 | 書籍・雑誌

『怪人二十面相・伝』(新潮社,1989年2月,絶版)
『怪人二十面相・伝 青銅の魔人』(新潮社,1991年1月,絶版)
この表紙デザインは、かなり好きです。特に『怪人二十面相・伝』のほう。

怪人二十面相・伝

現在入手可能なのは、『完全版 怪人二十面相・伝』(出版芸術社,2002年12月)ですが、とりあえず図書館にはこっちしかなかったので、こっちを読みました。出版芸術社のはおそらく、新潮社から出た2冊をまとめたものなんだろうな。

完全版 怪人二十面相・伝

2009年のお正月映画の原作ということなので、映画公開間近になったら、主役の1人である平吉を演じることになっている金城武の写真などあしらった新装版が出たりしないかなあ、と淡い期待を抱いて、現行バージョンは今のところ買い控え中です(笑)。あんまりそういうことする雰囲気の出版社じゃなさそうなので、無理か。新潮社のままだったら、これを機会に文庫化だってされたかもしれないのにねえ。

実は、最初の『怪人二十面相・伝』のほうは、10年以上前にハヤカワ文庫版を買って読んだはずなのです(ずいぶん、版権があちこち移動してるのですね、この作品)。でも、ストーリーのほとんどが、きれいさっぱり記憶から消えてました。今回、再読しながら、そうそう、こんな話だったわ……と、ようやくよみがえってきましたよ。あの頃はまさか、これが金城くん主演で映画化されるなんて思わなかったぜ。知ってたら記憶から抜け落ちるような読み方せずに、気合いを入れて精読しましたのに(ほんとかよ)。

これは、江戸川乱歩が創り出したかの有名なキャラクター、怪人二十面相を題材としたパスティーシュです。怪人二十面相と呼ばれた男は、実際にはどんな人物であったのか、どんな経緯で怪盗となったのか、どのように何を考えて、あのような脈絡のない犯罪をやっていたのか、そして何故、江戸川乱歩の作品群においては戦前から戦後にかけて、二十面相やライバルの明智小五郎の描写に、歳をとったようすが見受けられないのか……なんてことにまで、一応の回答と理屈付けが提示されています(単なるサザエさん方式じゃないのよ!←キャラが歳をとらない)。

乱歩の作品では謎に包まれていた怪人二十面相の裏事情は、そりゃあ面白い。けっこう間抜けだったり、情が深かったり。戦前・戦後の昭和の市井の描写にも、しんみり。そして、二十面相サイドから見る明智小五郎や小林少年の、そりゃまあ嫌味なこと(笑)。

でもねえ、いまひとつ、気持ちが盛り上がらない。だって、そういう書き方をするかぎり、この2作においては「謎に包まれた変幻自在の怪人」だったはずの二十面相が、「ちょっと器用な普通の人」レベルまで引きずりおろされてしまうのです。それって、なんだか寂しいような気も。

そしてまた、オリジナルの怪人二十面相が持つケレン味とアクのイメージが強すぎて、それに比べるとこの二十面相のキャラはずいぶんあっさり薄味だわ、と物足りなくも感じてしまうのです。前に読んだときの印象が頭に残っていなかったのも、その辺が原因かなあ。別に「贋作」として書かれたわけじゃないんだから、乱歩の作品とは違う読後感であっても、それはそれで作者の意図を尊重すべきだと、頭ではわかっているのですけれどね。

もっとも、このお話の「遠藤平吉」を金城武くんが演じるとなると、話は別(笑)。現在、報道されている情報を見るかぎり、映画はこの北村想の原作本とは、けっこう違うストーリーになりそうですが。絵的に、この世界の中に入った金城くんは、ぜひとも観てみたい気がしますよ。

Posted at 2008年1月 9日 09:07



All texts written by NARANO, Naomi. HOME