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2008年1月31日

グレゴリ青山『ナマの京都』

読了本 | 書籍・雑誌

ナマの京都

メディアファクトリー(2004年7月)【Amazon.co.jp】

先日、当ブログのコメント欄で教えていただいて、面白そうだったので、早速読みました。グレゴリ青山さんって、お名前から判断してずっと男性だと思っていたのですが、実は女性だったのですね!(しかも、アジア放浪漫画などを描いてらっしゃるという中途半端な知識だけは前々からあったので、なんとなく“むくつけきヒゲ面のバックパッカー”みたいな感じで想像してました……大変、失礼いたしました。)

なんでまたグレゴリ? と思って検索してみたら、あの『ローマの休日』のグレゴリー・ペックから取ったペンネームなのか。わはは。これでまた印象変わった。アジア放浪のイメージ強い人なのに、『ローマの休日』に思い入れなさってるんだ。

作風も、思っていたのとは、かなり違ったなあ。ちらっと脳裏にあった豪快な絵柄から、風刺的な毒のある笑いを想像しちゃってましたが、このたび初めてちゃんと1冊読んでみたら、そういうんじゃなくて、もっとこう、「ディープな教養を備えた、善良な人」っぽい漫画。ご自分をも含めた、いろんなものへのツッコミに、温かさがある。お馬鹿さんを見つめる視線にも、脱力感のなかに対象をいとおしく思う気持ちが感じられる。

で、この『ナマの京都』。京都生まれ京都育ちのグレゴリ青山さんが、観光ガイドには書かれていない京都を語ってくださってます。最初のほうの、高校生時代に料亭でアルバイトしたときのお話が強烈。生粋の京都人であるとはいえ、いたいけな女子高生だった青山さんに涙を流させた、京都流イケズの数々! 関西だけど京都じゃない場所で育ち、4年間、自宅から京都市内の大学に通っただけの私も、ありがちありがち、と思ってしまいましたが。

東京に引っ越して来て、何がいちばんよかったって、関西の古い町ほど「言葉の裏の意味」や「新参者・異端者・若輩者に対する“空気読め”的な無言のプレッシャー」がないこと。そして、戦々恐々として「スマートなやりとり」を目指さなくても、愚直にやってるうちに「そういうキャラ」として受け入れてもらえて、なんとか最低限の人間関係を保っていけることです(笑)。やはり、いろんなところから人が集まってきているので、最大公約数的な分かりやすいコミュニケーション方式が確立されているのだろうな。

若い頃には、世間に揉まれても揉まれても、まだなんとかギリギリ全面戦争に突入せずにセーフゾーンに留まれていましたが、歳をとって体力が落ち、関東のぬるま湯に浸りきった今は、もうダメ。今、あっちに戻ったら、揉まれて人間が丸くなるどころか、揉まれまくった結果、角のみならず全体的にすり減りすぎて、私の存在そのものが危うくなりそうです。もう一生「よその人」扱いでお願いしたい。

でも、青山さんは、一時は京都を離れていたにもかかわらず、今は京都(市外だけど)に戻って暮らしていらっしゃるのですね。やっぱ「生粋の人」は違うぜー(私の亡き実母は関西出身ではなかったのですが、代々地元で続いてきた家の生まれである2人目の母と暮らし始めてから、どうやら自分は人格形成期に生粋の関西人とはかなり違う感覚を刷り込まれてしまっていたらしいと気付きました)。

私がいたあたりにしても、もっと顕著なイケズ文化で知られる京都にしても、自分を押し殺すことなく周囲と軋轢を起こすこともなく、いろんなことを受け流して、うまく世間を渡っていく能力さえあれば、生きていくためのエネルギーを枯渇させることなく幸せに暮らしていける愛すべきところなんだろうなってことは、私もしみじみ思うんです。青山さんは、子供の頃から自然に鍛えられて、そういう高度な技を習得していらっしゃると見た。

本書のなかにはそういう、一度京都を出て外部からの視線をも獲得した青山さんが、改めて京都という町にツッコミを入れながらも、そこを愛さずにはいられないのだな、という空気が充満しています。

本書を紹介していただくきっかけになった、入江敦彦『イケズの構造』(新潮文庫)を読んだときには、ピンと来ない話も多いなあ、という印象だったのに、こっちは京都の民だったことが一度もない私でも、「そうそうそうそう、そうだよね!」とうなずくことしきりでした。そういう意味では、より「よそさん」向けの分かりやすいネタが多いのかも。入江さんの本より共感しやすかったのは、世代が近く(青山さんは私より4つ上なだけ)性別が同じだからってのもあるかもしれないけど。もちろん、共感だけじゃなく初めて知ったこともたくさんあって、新鮮な驚きも少なからず得られました。

映画館の話は、自分の記憶とも重なる部分があって特に楽しかった。ルネサンスホールが閉鎖されたのは、'92年だったのかー。『ジャズ大名』、当時気になってたんだよなー。あれ、最終上映作品だったとは。観に行っておけばよかった(あの1年は卒論と就活でてんやわんやだったので、ほとんど映画館で映画観てない)。みなみ会館も行ったなあ。

京都人は観光名所を知らないってのも、そのとおり。私が行った大学は、全国的にかなり有名なお寺がすごい近いところに複数あったんですが(ちなみにもちろん、市内に無数に存在する“王将”も、めっちゃ近所に1軒)、入学してすぐの頃、周囲の京都出身者に尋ねてみたら、みんな足を踏み入れたことがないと言ってたっけ。ガイジン(何故かロシア系)のつもりになって金閣寺などを目指す漫画が、めちゃくちゃ可笑しかった。宇多野ユースホステルは、私も泊まったことあるよーん(宿泊料金が激安なので同じ学科の人たちとの親睦会か何かに使ったんだったと思う)。

脱力系・おおざっぱ系の絵柄なのに、背景などのディテールが妙に正しいのもツボ。嶽本野ばらが美しく描写していたはずのあそこも、この本の漫画の中ではコレかよ! でもたしかにコレだよ! などと、じたばたしながら読んでました。

Posted at 2008年1月31日 15:01

コメント

わははー。さっそく手にとっていただけて嬉しいです。グレゴリさんは友達に「To-koが好きじゃないかと思って」と貸してもらって読み始めたのですが、どうしても手元に置きたくて、自分用に買い直してしまいました。アジア放浪気も奥が深くて楽しいですよー。私もたぶん、彼女の「愛あるツッコミ」が好きなんだと思います。

投稿者 To-ko : 2008年2月 1日 19:54



To-koさん、面白い本を紹介してくださって、ありがとう!
アジアに行く話も、すっごく読んでみたくなってきました!

投稿者 ならの : 2008年2月 1日 22:25





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