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2008年2月20日

ナオミ・ノヴィク『テメレア戦記I 気高き王家の翼』

読了本 | 書籍・雑誌

テメレア戦記I 気高き王家の翼

那波かおり・訳/ヴィレッジブックス(2007年12月)【Amazon.co.jp】

原書は、Naomi Novik "His Majesty's Dragon" (2006)

あのピーター・ジャクソン監督が、このシリーズの映画化オプション権を取得したというニュースを最初に知ったのは、2006年秋のこと。その後うーん、面白いのかなあ、と書店の洋書コーナーに行くたび横目でちらちら見続けていましたが、去年の暮れになってついに邦訳が。ずっとペーパーバック買いそびれててよかった(笑)。

それにしてもこれはたしかに、ちゃんと細部まで作り込んで映像化してくれたら、すっごくわくわくするんじゃないかな。迫力あるダイナミックな空中戦、生き生きとしたドラゴンたち、そしてミクロな視点からの想像力を駆使して表現された生活感。うん、本気で観てみたい。『ロード・オブ・ザ・リング』のジャクソン監督とWETAチームがやるなら、期待大(ただ、邦訳版の帯には「映画化決定」と書いてあったように思いますが、著者公式サイトの情報を見たかぎりでは、現時点ではまだ権利が売買されただけの段階であって、映画化に着手すると本決まりになったわけではなさそう?)。

ジャンルとしてはカバー折り返しの記述のとおり歴史ファンタジーであると同時に、詳細なシミュレーションに基づく「架空戦記」とも分類できるかもしれません。19世紀初頭、ナポレオン戦争の時代に、もしも人との意思疎通が可能な“ドラゴン”が存在しており、戦力として重要視されていたら……という。

さまざまな種に分かれたドラゴンたちの各属性、習性、能力、人間の管轄下に置かれた場合の役割などが細かく設定されていて、とても面白い(ちょっとゲームっぽい感じもするけど)。ドラゴンの出てくるファンタジーにありがちな古代や中世風の異世界を舞台とするのではなく、歴史で習った現実の近代ヨーロッパ世界に、いきなり“ドラゴン”という異質な要素が投入されてるだけでも新鮮ですが、細かいところで特に斬新だと感じたのは、巨大な1頭のドラゴンに搭乗するのが、複数の人間である点。「キャプテン」を筆頭にチームを組んで訓練を積んだ「クルー」なのです。なんだかまるで、この世界のドラゴンは知性を備えた生身の空飛ぶ船って感じ。うん、なんとなく飛行機よりも船だな、イメージが。自らがクルーメンバーの一員でもある、船。

その「船」という印象は、主人公(の1人)であるローレンスが、もともとは海軍将校だというところからのものかもしれないのですが。

このローレンス、なりゆきで絆を結んでしまって放り出せなくなった生まれたてのドラゴンのために、家族や婚約者同然だった女性とのつながりを断ち切ること覚悟で、それまでの地位や経歴も役に立たない、空軍の新人飛行士に転身してしまいます。とても誠実で真面目で責任感の強い、英国紳士。誇り高く義理人情に厚く、激情まかせの行動がまったく似合わない、常識的で理性的な大人です。なんか、冒険ファンタジーでここまで落ち着きのある主人公って、あんまりいない気がするよ(偏見?)。ほかの作品であれば賢明な年長の脇役として、熱血な年若き主人公を静かに強力にサポートしてくれてそうなキャラクター。

しかしながら。一貫してローレンス視点で進むこの物語には、実はローレンスに比肩する主人公ポジションで、ちゃんと“年若い少年”キャラも用意されているのです。それが、ローレンスが卵からの誕生に立ち会い、のちにキャプテンとして搭乗するドラゴン、テメレアです。

テメレア……ほんっとうに、言動が健気でかわいいんですよ! 牛とか丸ごとガツガツ食べちゃう巨大な肉食ドラゴンだけど! 卵の中にいるあいだにも周囲の音などを聴きながら成長しているので、殻が割れて生まれ出た瞬間から人間と同じ言葉をしゃべります。彼が徐々に自らの生きる世界のことを学び、心と体を成長させてゆくさまが鮮やかに描かれていて、保護者であるローレンスと一緒に、ほのぼのしたり感激したり。

利発で読書好き(巨体すぎて自分では本のページをめくれないのでローレンスが読んであげる)で、ちょっとむこうみずとも言えるけどとても勇敢で、ローレンスをひたすらに慕っているテメレア。公的には英国軍人ローレンスの「戦利品」だったテメレアは、原題および邦訳サブタイトルが示すように、イギリス王家に所属することになっていますが、そのあまりにも一途で純粋なローレンス本人への忠誠心が、いつか軍によって課せられた責務とのあいだに齟齬をきたして、ふたりを苦しめることになるのではと、読んでて少し不安になってしまうほど。

しかしこの第1巻のラストではまだ、ふたりの絆が本当にゆるぎないものとなり、周囲のドラゴンたちの誰にも似ていなかったテメレアの出自が明らかとなる過程を経て、今後さらに彼らがこのヨーロッパ全土を巻き込んだ戦争に翻弄されていくであろうと、読者に予感させるに留まっています。

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2008年2月21日

グレゴリ青山『ブンブン堂のグレちゃん 大阪古本屋バイト日記』

読了本 | 書籍・雑誌

ブンブン堂のグレちゃん 大阪古本屋バイト日記

イースト・プレス(2007年6月)【Amazon.co.jp】

古書情報誌「彷書月刊」(彷徨舎)で2003年6月号〜2007年4月号に連載されていた漫画に、書き下ろしを加えたもの。“おまけ”の「メーリーハムファサル」(旅先インドでカバンの中からちっちゃな内田百關謳カを取り出して……というすごい漫画)の初出は、内田百閨w第三阿房列車』(新潮文庫)だそうです(って、もしかしてこれ新潮文庫の巻末解説? やるなあ新潮社!)。

本書のメインは、高校を出て専門学校に通いながら古本屋さんでアルバイトをしていた頃の「グレちゃん」ことグレゴリ青山さんの日常を漫画で描いたもの。さらに、現在の関西の古本屋さん取材ページなども。

これ、前書きのあとの最初のページの最初のコマの背景を見た時点でいきなりモロ分かりですが、舞台になってるのは、梅田の「かっぱ横丁」の隣の、「阪急古書のまち」だよねえ。

えーと、グレちゃん高校卒業直後18歳なら、当時私は中3か。うわあ、あの頃このあたり、時々うろついてましたっ。お小遣いとの兼ね合いで、文庫コーナーやワゴンセールを漁るばかりでしたが、店から店へ、ふらふら歩いているだけでも楽しかった。そうか、もしかしたら私、グレおねえさんとこの辺ですれ違っていた可能性も、いや、自分が買った本をグレおねえさんに包んでいただいた可能性だって、あるんですね!? そして、そうか、あの頃、古本屋さんのレジ台の向こう側では、ああいう作業が行われたり、ああいう会話がされていたりしたんだなあ。

1980年代半ばといえば、世間の若者が行き来するようなところは、そろそろバブリーに華やかだったのではないかと思うのですが、あの辺は、とにかく時間が止まったようなマニアックな空間でした(きっと、今も)。にぎやかな大通りから道を1本、入っただけなのに、なんか昼間でも薄暗くってねえ。そんなところで働く古本屋さんたちもまた、すごく個性的なキャラとして描かれています。みんな、それぞれ独特のいい味出してる人たち。

そしてもちろん、さすが古本屋なんてところをバイト先に選ぶグレちゃん、高校を出たばかりのお嬢さんとしては、趣味嗜好にしても休日の過ごし方にしても、大変に渋い。今でいう「文化系女子」って、(よく分かってないんですが)こういう感じ? こんな子がアルバイトに来て真面目に働いてくれたら、そりゃあ周囲の古本屋さんたちは、すごく可愛く思っただろうなあ。

漫画以外にも、作中に出てくるアイテムの実物が写真と文章で紹介されていたり、古書店で入手した資料をヒントに作成された専門学校の課題や、バイトを辞めて旅に出てから店主さんに送ったイラスト入りのハガキが掲載されていたりして、本当に盛りだくさんな本でした。

なんだか、単に当時の古書店の内情を紹介しているだけじゃなく、アルバイトしながらデザインの勉強をしていた時代の青山さんの2年間が、この1冊の中にぎゅーっと詰まっているような印象。彼女が学校を卒業したあと就職せず、のちに漫画作品として結実するアジア放浪を始めたきっかけも、古本屋さんでの出会いにあったわけだし。

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2008年2月26日

土屋敦『なんたって豚の角煮』

読了本 | 書籍・雑誌

なんたって豚の角煮

だいわ文庫(2007年11月)【Amazon.co.jp】

All About Japan「男の料理」コーナーを担当する著者が、まるごと1冊、豚の角煮を語る本。ウェブでも紹介されている基本の角煮をはじめとして、四季折々の食材と組み合せたアレンジ、残った角煮の楽しみ方まで含めると、計27のレシピ付き。

――と、それだけなら、さっさとお料理本専用書棚(そういうものがあるんです、うちには)に片づけて、いちいち読了リストに記載したりはしないんですが、これ、レシピ以外にも、たくさん読むところがあったので。

東京で生まれ育った著者が、水のきれいな場所でないと仕事ができない染色家の奥さんとともに、佐渡島の古民家に移住。しょっぱなから悪天候に翻弄されたり、せっかくの田舎暮らしだと気合いを入れちゃったばっかりに自給自足にこだわって栄養バランスが崩れたり、アクの強い山菜を食べすぎて体調が悪くなったり。

しかし、いったん軌道に乗ってしまえば、ある意味すごく贅沢な生活ですよね。新鮮な海の幸、山の幸、自分ちや近所の人たちのところの畑からの採れたて野菜。もちろん、引っ越し当初の目的であった、きれいな天然水。自由業の夫婦なので毎日の通勤の必要なし、でも都会にも行く機会もあり。現在は住居を自作中で、1階に住みながらのんびり2階部分を作っているそうです。もちろん、今でも大変だったり不便だったりすることは多々おありでしょうが、それでもなんか、こう……もとから否応なしにそこで生まれ育っている人じゃないからこその、「いいとこどりの田舎暮らし」って気がします。何代も前からそこで暮らしている地元の人たちも、「あの一家は私たちとはちょっと違うから」みたいな感じで、どこかお客さん的に受け入れているんじゃないかと想像してしまったり(うがちすぎ?)。世の中には、こういう暮らしをしている人も、いるのだなあ。ため息。

あとは、とにかく「角煮」に対する愛が詰まった本でした。こんなにも、情熱的に角煮の美味しさを分析したりレシピ開発の過程を語ったりしている文章を読んだのは、初めてです。

で、土屋さんのレシピで作ってみました。コンロで超とろ火で3時間……土屋さんは「煮る工程に入ってしまえばキッチンに張りついている必要はない」と書いていらっしゃるのですが、うちで使っているのは立ち消え安心機能とか付いてない古いガスコンロなので、ヒマな日を「角煮デー」と思い定めて、こもりましたよ。

本当に、めざすべき角煮になっていたのかどうか、いまひとつ分かりませんが、たしかに本書で説明されているとおりの、外側は硬いけど箸を入れると中はやわらかく、長時間煮込んだにもかかわらずお肉の味が残っている角煮ができた、ような気がします。また、コンロのそばに付いている必要がなければ、もっとラクなのではないかと考え、ひととおりアク取りをしたのちにクッキングペーパーで落としぶたをして(この本に載ってた方法)低温気味のオーブンで同じようにじわじわと加熱するというのもやってみましたが、今度は何故か、一度焼き固めたはずの表面まで、ふわりと柔らかい不思議な角煮が完成。再現性のある現象なのかは不明。

あと、残った角煮を翌日、フライパンで表面カリカリになるまでじっくり焼いて食するというのは、やってみたら本当に美味しかった。そのうち、ほかのレシピも試してみたいな(ちょっと出来上がりの味が想像つかないような取り合わせもあるんですが)。

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2008年2月27日

ジミー(幾米)『幸せの翼』

読了本 | 書籍・雑誌

幸せの翼

岸田登美子・訳/小学館(2004年11月)【Amazon.co.jp】

台湾の人気絵本作家、幾米(ジミー・リャオ)による『幸運兒(Mr. Wing)』(2003年)の邦訳版。本書を手に取ったのは、2005年に台湾で上演された、この作品を原作とするミュージカルに、光良(マイケル・ウォン)が出演していたからです。つい最近になって唐突に発売されたサントラCDを聴いていて興味が湧いてきたので。CDに付属していた冊子の写真を眺めながら中国語の歌に耳を傾けているだけでは、なにがなにやらですし。

しかし一読して、うぅ〜〜〜む……と唸ったまま、言葉もなく放心してしまいました。私にとっては、気が遠くなるほど恐ろしいお話でした。どこに何を投影するかで、読むたびに受け止め方が変わってしまうのでしょうけれどもね、こういうのは。でも、今までに読んだ幾米の絵本のなかで、少なくとも読んでる途中はいちばん、「怖い」あるいは「重い」と感じましたよ。

反面、ほかの幾米作品と同じく、やわらかい描線のユーモラスな絵に、あふれんばかりの豊かで鮮やかな色彩が駆使されていて、細部の描き込みの凝りようなんかも素晴らしく、同じページを何度も飽きずに眺めてしまうのですが。

意表を突かれたのは、序盤からずっと「彼は……」というふうにストーリーが語られていくので、てっきり主人公である《彼》視点による三人称の物語なのかと思ってたら、中盤で突然、「僕は……」と、一人称の表現が出てきて、別の語り手が存在することが明らかになる点です。しかも、そのページを隅から隅まで見ても、《僕》の姿はどこにもないのです。

さらにページをめくっていけば、やがて《僕》はおそらくこの人なのだな、と見当がつくのですが、それは主人公と人生を分かち合うことが期待される血縁者や配偶者などではなく、ただ《彼》のそばにいるだけというポジションのキャラクターなのでした。その距離感が、あとになって考えると絶妙。

誰もが羨む、分かりやすい「幸福」をそのまま体現しているかのような人生を送ってきた主人公の身に、さらに「奇跡」が起こる。けれどもそれは、決して本人が望んだものではなくて。

背中に生えた奇跡の翼は、やがて皆の期待に応えようと頑張っていた主人公から、それまでの「幸福」を構成していた何もかもを奪っていく。そしてまた、主人公に近しかった人たちから、彼の存在そのものを剥ぎ去っていく。彼は常に、異端の者。運命に抵抗することは苦しく、運命を受け入れることは孤独。それとも、そうでもないのかな? 彼と同種の者はどこにもいないけれど。それは本当は、誰でも同じ?

これは、誰とも共有してもらえない、自分だけの運命を受け入れ、かつ心静かに在ることについての物語なんだと思いました。

ミュージカル版では、クライマックス(たぶんクライマックス……中国語分からずに聴いてるから定かではない)のところに、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の冒頭部分が日本語で入っていました。朗読しているのは、松島誠さんという方(この人かなあ? 中国語圏での仕事もしているみたいなこと書いてあるし)。

自然と共に在り、自分にできることを淡々とやり、独りのときに涙を流し、いつもは静かに笑っている、褒められもせず苦にもされない――宮澤賢治がいうところの「サウイフモノ」を志向すること。それが、この物語の主人公が最終的にたどった道にも、通じているというのが、ミュージカル版の脚本を書いた人の解釈だったのかなあ?

あと、こういう読み方は無粋だと自分でも思うのですが、幾米の経歴を見ると、もともと会社勤めをしていた彼が絵本作家になったきっかけは、白血病になったことなのだそうです(そういえば、これのあとで初期作品の『ほほえむ魚』を読んだら、冒頭に病院スタッフやお医者さんへの献辞がありました)。そういう知識を念頭において読み直すと、突然生えてきた「翼」によって普通の平穏な生活を送る能力を理不尽に奪われてしまった主人公には、幾米自身が投影されているような気もしてきます。

ああ、それから、本書の最後のほうのページには、満席になった映画館内のシーンがあって、この映画館では『ターンレフト ターンライト(向左走・向右走)』(幾米による原作本の邦題は『Separate Ways 君のいる場所』)が上映されているようなのですが、やはり私の脳内では、本書においてもスクリーンのなかにいるのは金城くんってことにしておいた!(絵本のページに描かれてたのは、映画バージョンでは原作から改変されてて使われなかった場面だけどね!)

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2008年2月28日

2008年2月に読んだものメモ(前)

読了本 | 書籍・雑誌

おっと、うるう年であるとはいえ、やはり2月は、ほかの月より早くに終わってしまうのですね(と、当たり前のことに今頃気づく)。とりあえず、今月読んだ本のメモを、途中まで。つづきは、29日付けの記事で出します(実際に29日中に書けるかどうかはともかく)。



山本文緒『再婚日記』(角川書店,2007年5月)
 初出は『野生時代』2003年12月号〜2004年4月号および2006年8〜11月号、そして2007年1〜2月号。
 去年、藤田香織さんや桜庭一樹さんの“日記本”を読んで、プロの文筆家の人が淡々とその日のことを綴った日記ってのも、書籍としてまとめて読んでみると面白いものだなあ、と目覚めてしまい、もっとほかに何かないかな? と見まわしてて目に留まったのが、これ。そういえば、何年か前に再婚なさったって、どっかで話題になってたっけ。
 ――と、そんな感じでまったく予備知識なしに手に取ったので、タイトルからのイメージとは少し違って、途中からどんどん「うつ病との闘い」記録になってゆくことも、さらには途中でぷつりと切れて連載再開までに2年のブランクが空いてしまうことも、まったく予想外でした。入院までなさっていたのですね。
 何も書けなくなる直前の2004年の日記と、落ち着いてからの2006年の日記では、かなり文章のトーンも山本さんの生活も変化していて、やはり健康的な規則正しい生活って、馬鹿にしちゃいかんのだなあって思いました。【Amazon.co.jp】


土屋敦『なんたって豚の角煮』(だいわ文庫,2007年11月)
 とにかく丸ごと1冊、豚の角煮を語った本。27種のレシピ付き。都会から佐渡島に移住しての暮らしぶりについての記述も、面白く読みました。詳しい感想文はこちら【Amazon.co.jp】


ジミー(幾米)『幸せの翼』(訳:岸田登美子/小学館,2004年11月/原書『幸運兒(Mr. Wing)』2003年)
 2005年に台湾で上演されたミュージカル版のCDを買ったので、ついでに原作の邦訳版も読んでみました。美しいけど怖い話。詳しい感想は、こちら【Amazon.co.jp】


ジミー(幾米)『ほほえむ魚』(訳:有澤晶子/早川書房,2002年6月/原書『微笑的魚 (The Smiling Fish)』1998年)
 上述のミュージカルには、こちらのお話の要素も入っていたと、実際に舞台をご覧になった方に教えていただいたので。私がイメージしていた幾米とは、絵柄がちょっと違う? と思ったら、これは幾米が絵本作家として最初に発表した作品のうちの1つであるようです。なるほど。最近の作品よりも、描線がシンプルで、色の塗り方が淡く筆の跡がはっきり分かる感じ。そしてやはり、ほのぼのしつつもシュールなお話でした。互いを束縛しない、息苦しさのない自由な関係は、「別れ」の可能性をも内包していてどこかしんみりとしているけれど、それでもやはり、それを選ぶことで得られるものって、あるよね。
 あと、これを読んでから『幸せの翼』を読み返すと、なるほど、この「ほほえむ魚」を飼っていた主人公が『幸せの翼』のとあるキャラと同一人物であるというミュージカル版の解釈はアリだなあ、と分かりました。【Amazon.co.jp】


大平一枝『チルチンびとの本3 ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社,2007年12月)
 先月読んだ、『ずらり 料理上手の台所』(マガジンハウス)を見つけたとき、書店で隣に置いてあって、なんとなくこちらにも惹かれてしまいました。それぞれ個性的で、あれこれいっぱい好きなものを並べて工夫を凝らした、居心地よさそうな台所が、たくさん紹介されています。新築のシステムキッチンのようなシャープなきれいさはないけれど、古びたものにも味があって。よそんちのキッチンは面白いなあ。いちばん、暮らしぶりに密着しているところだからかなあ?【Amazon.co.jp】


大平一枝(文)+小畑雄嗣(写真)『ジャンク・スタイル 世界にひとつの心地よい部屋』(平凡社,2003年11月)
 上記の本で言われていた、“ジャンク・スタイル”って、ちょっと面白そうかな、と同じ著者のもう少し前の本を見てみました。要するに、骨董品というにはまだちょっと新しいくらいの、100年未満の古さのモノを「ジャンク」と定義し、新品ぴかぴかのものよりむしろそういったアイテムで住まいをコーディネートしてるのがジャンク・スタイルってことでOK?
 まあ、そういう定義なので、取材されてるおうちもさまざま。それぞれの住人が、自分の趣味に合うように「ジャンク」を集めているってだけなので、どのおうちもほかに似ず個性的。写真を見ているだけでも、とっても楽しい。1つ1つの品は、決してセットとしてそろっているわけではないのに、持ち主の好みで選ばれているというだけで、なんとなく統一感があったり。それでも、1つ1つの品の背景には、それぞれ異なったストーリーがありそうにも思えて。そういうの好き。
 ただ、2冊続けてこの「ジャンク・スタイル」本を眺めているうちに、なぜか、なんとなく気恥しい思いも込み上げてきてしまったのでした。たしかに、都会派でスタイリッシュで、ものが少なくてクールでお洒落だけど生活感がなくて……みたいなのより、こういうののほうが、私は好きだ。ほどよく雑然とした、温かみと味のある、住んでる人の顔が見えるおうち。ただ、うーん……なんていうか、そういうのをいくつも連続で見てると、「分かりやすい高級品を使わないことへの自意識」みたいな部分までもが気になりだしたりもして。どんなものについてであっても、自分をも含めた「人の目」に触れることを意識して整えるかぎりは、自意識というものから決して自由ではいられないのだなあ、みたいな。ああそうか、何よりも、こういう本で取材に応じている他人様のおうちを見てあれこれ思っている自分自身を、いちばん恥ずかしく思っているのだわ、私は。これもまた自意識過剰。
 この辺の葛藤については、うまくまとまっていない。また書いてみたい。【Amazon.co.jp】


ナオミ・ノヴィク『テメレア戦記 気高き王家の翼』(訳:那波かおり/2007年12月,ヴィレッジブックス/原書 Naomi Novik "His Majesty's Dragon" 2006)
 ナポレオン戦争時代に、ドラゴンがいたら……という架空戦記もの。テメレア可愛い! ローレンスよい人! とにかくわくわく! 別途、感想文を書きました。【Amazon.co.jp】

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2008年2月29日

2008年2月に読んだものメモ(後)

読了本 | 書籍・雑誌

2月28日に出したメモのつづき。

こうやって各月の読了記録のまとめを書いていると、ついうっかり、けっこう長々しくなってしまうときもあるんですが、長いわりにはいまいち言いたいことを言いきれてないなあ、うまく言語化できてなくて直感的・感覚的なコメントに終わっちゃってるなあ、と思うようなときには、敢えて別エントリに分けたりしないで、そのままずらずら並べてしまうのでした。

それじゃあ、月末まとめ以外の、独立した読書感想記事は感覚的なコメントで終わっていないのかといえば、そうともかぎらない場合が多いことも自覚はしているのですが。

まあとにかく、ときおり妙に長々しい「メモ」の羅列になってしまってますが、見づらくてごめんなさい――ということを一度、言っておきたかった。



酒井順子『黒いマナー』(文藝春秋,2007年9月)
 カバーの上にずらりと並んだお食事ネコさんたちのイラストがすごく可愛い。でも、真っ黒背景に白抜きなので、なんか怖い(笑)。酒井さんが提示する、いまどきの新しいマナー(?)が必要であろうと思われるさまざまな「気まずい場面」の設定が、なんとも巧いとこ突いてて、居たたまれなさと可笑しさのあいだで板挟みに。そこを見てしまうのは意地悪だなあと思いつつ、たしかにあるかもしれないよなあ、という。【Amazon.co.jp】


桜庭一樹『私の男』(文藝春秋,2007年10月)
 第138回芥川賞受賞作に決定したばかりの話題作。なんか、今この時期にこれを読むって、ミーハーっぽい? 去年、『桜庭一樹読書日記』(東京創元社)で、桜庭さんがこの作品を鬼気迫る勢いで執筆なさっていたことを知って以来、気にはなっていたのだけど。でもそうやってものすごいエネルギー注ぎ込んで書かれた作品が受賞しておめでとうございます。
 1章ごとに時系列が逆行し、なぜこうなったの、なぜその言葉が出るの……というのが、読み進めてみて初めて理解される構成のおかげで、ぐんぐん引っ張られてページをめくってしまいました。
 それと同時に、桜庭作品でよく感じる「女であるということ」に課せられた意味の過剰なほどの重さ、そしてとりわけこの作品においてそこに絡められている「血縁」という概念に、読んでてもうまく乗り切れてない自分が、もどかしいような、でもやっぱり、たとえそういう世界観に惹かれていることを自覚したとしても、理性で歯止めをかけてあんまり乗らずにいたいような。
 キミたちってば、すっかり自分らだけの世界に入っちゃってるけれど、そしてその排他性はたしかに美しく完成されたものではあるけれど、キミたちの抱えるものって本当の本当に、そこまで悲壮にどろどろしちゃわないといけないもんなのか? ちょっと酔っちゃってない? というような口惜しさと作品世界から一歩さがって頭を冷やしたくなる感じが、どうしても最後に残ってしまうのですね。その割り切れなさまでが、作者の中では織り込み済みのような気もするんだけど。こういう作品を書く人が、「一樹」という男名前のペンネームを使い続けていることもまた、改めて考えると非常に興味深い。【Amazon.co.jp】


香山リカ『知らずに他人を傷つける人たち モラル・ハラスメントという「大人のいじめ」』(KKベストセラーズ ベスト新書,2007年2月)
 さくさく読みやすいんだけど、なんとなく食い足りない感じも。新書だし仕方ないかなあ。文体のせいもあるかも。ここ数年の香山先生のご著書は、わりとみんな、よく似たスタイルにまとまっている(ような気がする)ので。本書のテーマに関しては、「ふたりの間である種の歯車がカチリと合って起きる関係性の病」という表現が大変しっくりと納得のいくものでした。【Amazon.co.jp】


井上尚登『厨房ガール!』(角川書店,2007年9月)
 ああ、これはすごく好き。軽〜く息抜き的に読めて、前向きな気持ちになれます。いわゆる「日常の謎」系のミステリですが、こういう舞台設定のものは初めてかも。あとがきで作者自身が書いてた『学校を卒業したひとたちが、もういちど味わう学園生活』という説明が、まさにそのまま。
 バックグラウンドさまざまな老若男女が学ぶクッキングスクールの略称が「SWAT」だとか、そういうネタの漫画的な軽さも、元警察官であるヒロインのはちゃめちゃな設定(緊張が高まると周囲の人を無意識に投げ飛ばす)とあいまって、いい感じに作用している気がします。各章のうんちくと、お料理修業の場でのちょっとした引っかかりが思いも寄らぬ結論につながっていく展開が、楽しい楽しい。ほのかな恋愛模様をも含めた主要登場人物たちのその後も、ぜひぜひ知りたいなあ。続編、出てほしい。【Amazon.co.jp】


以下、漫画本です。


グレゴリ青山『ブンブン堂のグレちゃん 大阪古本屋バイト日記』(イースト・プレス,2007年6月)
 専門学校でデザインを学びながら、古書店でアルバイトをしていた頃のことを描いた漫画に、その他いろいろ加えた盛りだくさんな本。別途、感想文を書きました。【Amazon.co.jp】


清水玲子『秘密 トップ・シークレット』第4巻(白泉社,2008年2月)
 今回は、1冊ほぼ丸ごとを費やして1つの事件を追っているので、読み応えがありました。そして青木くんには、よい出会いがあったよかったねと言ってあげたいのですが……薪さんが、なんだかどんどん追いつめられてるような感じで、心配ですよ。薪さんの救いとなるのは、青木くんのストレートさと精神的なたくましさなんじゃないかと思っていたのだけれど、こうなってしまうと薪さんは青木くんからもますます距離を取りそうだよなあ。しかしこれほんとに、アニメ化するの? こんなエグい話を?【Amazon.co.jp】


中村光『聖(セイント)☆おにいさん』第1巻(講談社モーニングKC,2008年1月)
 ブッダとイエス・キリストが、2人そろってこんなおかしなギャグ漫画の、とぼけた主人公になってくれちゃう、日本という国に生まれてよかったと思いました。ちょっとした小ネタがいちいち可笑しい。Tシャツのロゴとか!【Amazon.co.jp】


細川貂々『どーすんの? 私』(小学館,2008年1月)
 細川さんが、高校を出てから、フリーターや会社員を経て、専門学校への入学を決めるまでのお話。何をやったらいいのか分からなくて、あれこれ回り道をしちゃってたあいだの心の動きが、すごく素直に描かれています。私はわりと、若い頃は、自分のやりたいことがはっきり決まってるつもりでいて、さくさくと道を選んで前に進んでいってしまったのですが、本当は若い頃に、もっと悩んでおくとよかったのかもしれないなあ。今頃になって、これまでで一番、「これからどーすんの?」って思っちゃってるので(笑)。
 あと、この本を読んだら、若い頃の私って、すごく恵まれた環境にいたんだ……と、感謝の気持ちが湧いてきました。私も女子校出身ですが、細川さんがコラムのページに書いてらしたような「みんなで同じことをしないとダメ」的プレッシャーは、あんまりなかった気がする。
 職場の人間関係も、平穏だったなあ。みんな良識のあるいい人ばかりで、細川さんの場合のように、仕事と関係ないどろどろした感情を見せつけられるようなことは最後までなかったです(どろどろするヒマもないくらい常に仕事が山積みだったってだけかも)。私も結局、1つ目の職場4年、2つ目の職場2年で勤め人生活はやめてしまったわけですが、この本に描かれているような恐ろしい会社なら、数ヶ月も経たないうちにギブアップしたに違いない!【Amazon.co.jp】

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