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2008年4月10日

梶原由佳『『赤毛のアン』を書きたくなかったモンゴメリ』

読了本 | 書籍・雑誌

『赤毛のアン』を書きたくなかったモンゴメリ

青山出版社(2000年4月)【Amazon.co.jp】

3月に読んだ本。先日、当ブログの過去記事にコメントをしてくださった“ゆかじん”さんこと梶原由佳さんのご著書です。梶原さんは、トロントの図書館に勤務しながら、モンゴメリの研究をしていらっしゃいます。

本書では、モンゴメリにゆかりのある地を実際に探訪し、残されている日記や手紙を読み込み、生前の彼女を直接知る人びとにも取材しながら、その人生をたどって、彼女がどのような人であったのかを浮き彫りにしています。

カナダの作家、ルーシー・モード・モンゴメリ(1874〜1942)による『赤毛のアン (Anne of Green Gables)』が出版されたのは、ちょうど今から100年前、1908年春のことでした。

この作品が世に出たとたん、モンゴメリは一躍有名作家に。次々と他シリーズの新作に取り組みつつも、読者と出版社からはいつも「アン」のつづきを求められ、気が進まないままに「アン」のその後の物語を発表してゆきます。

一方で、モンゴメリの私人としての毎日は、主婦として母としてそして牧師夫人として自分を律し、地域の人たちとのソツのない交流を含む内助の功に励み、周囲には秘密にしておかねばならない夫の精神病に悩み、心を開けた唯一無二の親友が若くして病死したのちは遠く離れた文通相手と日記帳にしか心情を吐露できず、経済的に苦しかった時期もあり……と、ポジティブになれない要素も多々含まれたものでした。嫌々書いたはずの「アン」続編について、生活苦から打算的に映画化のオファーを願ったりしたこともありました。

しかし、そういうことを知ったうえでも……やっぱり、「アン」は続篇も含めて、生き生きとして、細やかな生活感と確固とした審美眼に裏付けられ、時に皮肉なユーモアがピリっと効いていて、シリーズ後期に至るまで面白かったと思うのです。自分ではもともと特に書きたくなかったものであっても、要請に応じてあんなにみずみずしい作品にすることができたモンゴメリの筆力、そして作家としての活動に専念できない状況の中でも書きつづける意志の力はすごかったのだなあ。

リアルタイムで「アン」の新作を待ち続けた100年前の読者たちの反応が興味深く、当時の「流行作家」の苦労に思いを馳せてしまいました。熱狂的なファンへの対処なんて、今の時代の作家なら、公式サイトを開いてFAQコーナーを作ったりすることでかなり負担を軽減できただろうにね(笑)。

ダークな部分も多かったモンゴメリの生涯については、前に読んだ(そして梶原さんのご著書を読むきっかけにもなった)小倉千加子『「赤毛のアン」の秘密』(岩波書店)でも大まかに知ることができたのですが、すべての作品を書き終えてしまったあとのモンゴメリの「死」を作品評価に反映させようとしていた『〜秘密』と違って、今回読んだこちらは作品を生み出しつづけていたモンゴメリの「生」に焦点を当てている本で、私としては、こういうアプローチのほうが抵抗のないものでした。

そして、「アン」には盛り込めなかったさまざまな思いが投影されているであろう、ほかのモンゴメリ作品も、ちゃんと読んでみたくなりました。

また生前のモンゴメリを覚えている人たちの談話は、とても貴重な記録でもあるのではないでしょうか。正直、モンゴメリの没年をちゃんと認識していなかった私は、この本が書かれた時期に、まだそういう人たちがご存命だったことに、軽く驚いてしまったのですが。今もモンゴメリの世界を愛し、さまざまな活動をおこなっている人たちに関する記述にも、真摯な共感がこもっています。

カナダに根を下ろし、モンゴメリを愛する人たちに寄り添うスタンスで丁寧な取材を進めることができた著者だからこそ、書けた本なのだと思います。

Posted at 2008年4月10日 08:26

コメント

赤毛のアンづいてますね(^^

私もずーっと以前にモンゴメリの伝記か研究書で、彼女はアンばかりを求められるのを嫌がっていた、と読んだコトがあって、作品があんなに面白いのにーと意外に思っていました。私もアン・シリーズに対する想いをちょろっと書いているのですが(ただの感想文です。→http://purax2s.adam.ne.jp/numa/loveb02.html#Anne)、そこではモンゴメリの想いはあえて無視させてもらいました。作品を愛するには必要のない情報かな、と思って。

モンゴメリの他の作品も読みましたが、やっぱアンが私は一番好きです。

投稿者 To-ko : 2008年4月13日 19:18



赤毛のアンづいている、というか、「アン」自体を読み返すにはまだ至っていないのですが(汗)。でも今年は出版100周年でもあるし、せっかくだから近いうちに再読したいなー。

To-koさんの「アン」シリーズ論、そうそう、そうだよね! と、ぶんぶんうなずきながら拝読しました。素晴らしい。

モンゴメリ本人には不本意だったかもしれないけど、やっぱり愛すべきシリーズですよね? 100年後の異国の読者としては、書いてくれて本当にありがとうって気持ちです。

投稿者 ならの : 2008年4月14日 00:38





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