覚書目次前へ次へ虫干し部屋 indexHOME

指輪映画私的覚書〜「旅の仲間」篇〜 [8] (2002.7.23)

8. キャラクター〜アルウェン(リヴ・タイラー)〜


 原作ファンにはかなり評判の悪いリヴちゃん。インタビュー映像で素顔を見ていると、白い肌にピンクの頬っぺが健康的に映える、なかなかに可愛い女の子だったりするのですが、いかんせん、映画のなかでも、やっぱり「なかなかに可愛い女の子」には見えても「数千年生きてきた人ならぬ種族の高貴な姫」としては疑問が残ってしまうのです。個人的には、第 2 部から重要な役どころで登場予定の 23 歳の人間の女性エオウィンにキャスティングされているのが、三十路を過ぎたベテラン演技派女優さんだということを知って以来、「エオウィンのほうがアルウェンよりも貫禄あったらマズいんじゃない?」という懸念もありました。もっとも、第 2 部の予告映像では、エオウィン姫もかなり可愛らしいかんじだったので、その辺はちょっと安心したのですが。


 あと、映画のなかでのアルウェン姫のメイク、キツい顔に作りすぎと思うのは、私だけですか? 素顔のリヴちゃんのほうが、断然きれいに見えるぞ。あれが欧米での「美人メイク」なんだろうか。そういえば、ディズニー・アニメのヒロインなんかも、日本人の美的感覚ではちょっとキツい顔立ちだったりするような。


 映画と原作とで、一番キャラクターが変わってしまったのが、このアルウェン姫でしょう。というか、原作では、どういうお方なのかが、今ひとつよく分からない。どっちかというと、アラゴルンにとっての希望を象徴する「シンボル」のような位置付けですよね。出番というほどの出番もなく。アラゴルンの想い人という設定も、原作の第 1 部では、ものすごく間接的な言及のされ方でした。第 3 部の後半になって「ああ、そういえば第 1 部でもあんな描写が」みたいな。実はアラゴルンとアルウェンのラブストーリーは、原作のタイムラインでは『指輪物語』より前の時代にすでに一段落しちゃってるし、指輪戦争とは直接関りのないことでもあるので、本編ではほとんど具体的な説明がないんですよね(このあたりは原作「追補編」を参照のこと)。


 だから映画としてアレンジするときに、第 1 部の段階からアルウェンの出番を増やして、キャラクターとして肉付けするというのには、一応賛成です。あんなに魅力的なエオウィン姫となにもなく終わったのちに、最後の最後で遠方より「え、こんな人いたっけ?」なアルウェン姫がやってきて「実は婚約してたんです」といきなり判明するというのでは、やっぱり観客は納得できないよね。


 しかし、流行りの「戦うお姫様」にしちゃう必然性は、本当にあったんだろうか。いくら原作イメージが曖昧とは言っても、やはり“去りゆく種族”であるエルフ関係は「古典的な貴人」として描いておかないと、作品世界そのものに影響が出てしまうような気が。また、第 2 部で登場のエオウィンが原作でも正真正銘の「剣を持って戦う女性」なので、アルウェンを反対のタイプに位置付けておかないと、お互いキャラが立たなくて損だと思うのです。アルウェンを、ただただアラゴルンを待ちつづけるだけのお人形さんのような女にしたくなかったという意図は分からないでもないのですが、別に剣を持たせなくとも、数千年の叡智を備えつつガラドリエルと比べれば若々しさも残っている、しなやかで芯の強い女性として魅力的に描写することは可能だったのでは。強さって、体育会系だけじゃないぞ。


 ただその反面、これはもう、いまどきの映画の宿命であるような気もします。上記のような「エオウィンとのキャラかぶり」問題にしても、現段階では原作を知っている人間にしか意味のないことだし。今回の第 1 部に限れば、主要キャラクターのなかに女性はアルウェンとガラドリエルしかいないわけで、ただでさえ現代の「PC な(政治的に正しい)」ストーリーがもてはやされる映画業界では、この男女の数のバランスの悪さだけでも、かなり不利。加えて、主要登場人物の中に有色人種(とりわけ黒人)がいないことで、現実にあれこれと揶揄されている作品でもあります。(個人的には、作品世界の設定上、ここに主要キャラとしてアフリカ系民族が加わるのはかえって不自然であるし、そこに差別意識を見ることには、違和感を覚えますが。「日本昔話」に黄色人種しか出てこないのはおかしい、と言ってるみたいなもんでは。)興行的なこと、PC 関係の非難の矛先を少しでもそらすこと、なおかつ原作世界をなるべく尊重すること――それらすべてを鑑みて、一番本質的な部分に影響がなく、なおかつインパクトのあるアレンジをしやすいのが、アルウェンのキャラクターだったのではないでしょうか。


 まあ、単にピーター・ジャクソン監督のシュミって可能性も大きいのですが。何度か映画館に足を運ぶうちに、この映画版アルウェンにも、それなりに愛着が湧いてきました。原作のエルフのイメージが刷り込まれておらず、原作のアルウェンやエオウィンを知らない人であれば、このリヴ・タイラーのアルウェンがフロドを抱えて馬を駆るシーンなど、けっこう「颯爽としていて、かっこいい!」と、ときめいたりしたのでは。特に、年若い女の子の観客には、受けたかも。


 あとは、第 2 部以降での、“楯持つ乙女”エオウィンとの対比をどうクリアしてくれるかですね(原作と違い、第 2 部の段階でふたりの顔合わせがあるという噂なので)。それぞれタイプは異なっていても双方が魅力的な女性であると、観客を納得させてくれないと面白くない。とりあえずいろんな意味でPJ監督が「やりすぎ」ないように祈ってます……。なんだかんだ言っても、もともと恋愛的要素が占める割合は少ない物語なんだからね! ストーリーの基幹部分にあまり密接にアルウェンが関与して来ちゃうと、やっぱりちょっと辛いかも。



→9. キャラクター〜そのほか〜

覚書目次虫干し部屋 indexHOME