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虫のいい日々 [95] (2002.4.29, Mon.)

しつこくもとりとめなく


 前回の文章について、雪樹さんから御返事(あれれ日記 4/27)をいただきました。(はじめまして、こっちもいつも拝見してます〜。ぶんぶん!←手を振る音)


 分かっていただいているような気もするけど、一応弁解。前回のは「うぇーん、雪樹さんにイタいって言われちゃったあ」と思って反応したわけではないのです。(別のところでは、けっこう冷静な問題指摘まで「騒いでいるのは指輪マニアだけ」と強い語調でねじ伏せている発言を見て哀しかったりしたのですが、雪樹さんの書いておられたことについては、そういうふうには受け取っていません。誤解を招いていたとしたら、すみませんでした。)


 前回、雪樹さんや向井さんの日記にリンクしたのは、「字幕版でも伝わるものは伝わる」という客観的な意見として、指輪ファンな自分の偏った見解とバランスを取るつもりで参照先とさせていただいた、つもりだったのです。以前から問題ありな字幕は見てきているのに今回だけ特に嫌な気持ちになっているのは、やはりモノが『指輪物語』の映画で、自分が指輪ファンだから、という面があるのも事実なんですよねえ。


 以下、うまくまとまらないうえに前に書いたこととも重なりそうだけど、さらに思ったことを。


 私はどうしても「もし矢面に立ったのが自分だったら」と想像してしまうので、業界の構造がどうたらこうたら言ってしまいますが、その一方で、好きな作品を傷つけられたと感じた一般ユーザ(という言い方は変か)がまず翻訳者として代表的に名前を出している人に怒りをぶつけるのは、仕方のないことであるような気もしています。名前を出すというのは、そういうリスクが伴うことだと思う(でも、見ていて辛いのよ〜)。


 映画一本に一週間という翻訳期間は、たしかに短いかもしれないけど、比較的評判のいい字幕もそれくらいで作成されてるわけだし、あまりにも……な字幕を見てしまうと、作品のファンとしては翻訳者がせめて手元にあるその一週間だけでも作業対象にもっと注力してくれていたら(できれば愛情を持っていてくれたら)防げたミスがあるのではないか、と思わざるを得ないことも事実です。


 雪樹さんが言及しておられた署名収集サイトは、もともとは誤訳部分を面白おかしく(と感じない人もいるだろうけど)指摘するのを「芸風」とした単なる一個人サイトにすぎなかったのが、周囲のファンの人たちに突き上げられるような形で署名運動の拠点になってしまった経緯を見てきているので、これも指輪ファンの偏った見方かもしれないけど、やり方を非難する気にはなれないですね。お仕事も忙しいみたいなのに、試行錯誤しながら軌道修正を重ねて、よくやってくださっていると思います。


 あと、状況を改善するには、映画会社が潤わないとダメ、という雪樹さんの意見は、そのとおりだと思います。で、さらに言わせてもらうなら、翻訳者サイドにも費やす時間と労力、それに個々の実績に見合うだけの報酬が保証されないとダメなんですよね。


 副業に手を出さず、なおかつ年間に請け負う本数を減らしても、それなりの収入が見込める状態が確立されていなければ、丁寧な仕事をするのはごく一部の、生活がかかっていないか、あるいは自分の生活や健康状態をすり減らしてでも納得の行く仕事をしたいビジネス度外視の翻訳者だけになっていってしまうような。品質維持をそれに頼っていては、破綻するしかないと思うのです。(うーん、やっぱり自分のいる業界に重ねてしまっているなあ。)


 翻訳業の中でも字幕は新人の参入が難しいジャンルだと言われているのも、クレジットに特定の翻訳者の名前ばかりが目立つのも、もしかしたら大御所を使っても新人を使っても配給会社サイドが支払う翻訳料にはさほど差がないからなのではないか、と部外者としては勘繰ってしまうのですが、実際どうなんでしょうね。大御所でも純粋な一本あたりの翻訳料ではそんなに儲かってはいないんではないか、というのが傍目からの印象です(ネームバリューゆえに翻訳以外のお仕事がいろいろ来ているということはあるにせよ)。本の印税みたいに、作品が大当たりしたら翻訳者の収入も加算されるというわけではなさそうだし。だから大雑把な仕事でOKって言うつもりはないんだけど……。


 ――とか言い出すと、結局は堂々めぐりだなあ。むずかしい。これ以上続けると、本気で自分に跳ね返ってきそうなので、とっちらかったまんまだけど、今度こそ、この辺で止めておこう。なんか同業者方面からすごい顰蹙買ってるような気がする(笑)。


→ 番外

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参考リンク

eigoTown.com:映像翻訳の現場から
ファンには評価の高い「マトリックス」や「スターウォーズ特別編」の字幕を手がけた林完治さんのインタビュー。仕事は「ほぼ 3K に近い」とか。このリンク先ファイルの前後にも、興味深いお話が。

(株)日本シネアーツ社:字幕はこうして入れられる
字幕作成プロセスの具体的な説明があります。なお、この会社では「スポッティング」と呼ばれる作業は専門の人に任されているようですが、スポッティング段階まで翻訳者が担当することもあると伝え聞きます。

新藤翻訳工房:字幕翻訳のルール
こういうことを考えながら訳さないといけないんですね……。

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